刃に心《第18話・戦、始まりて…激闘編》-8
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疾風が無事に守護した弁当を食べ終え、体育祭はいよいよ山場を迎える。
『さーて、現在の総合順位は一位2−E、2位3−G、3位1−A!』
2年E組から歓声が沸き起こる。
『だが、勝負はまだ判らないぞ!午後からは障害物競争を始め、リレーの決勝、スウェーデンリレーもある!この三種目は得点も高いからまだまだ逆転の可能性は高いぃ!!』
その言葉通り、大半のクラスはまだ諦めておらず、瞳は手負いの獣の如くギラついている。
『では、早速参りましょう!通常リレー決勝です!』
選手が位置につく。
空砲が空に向けて放たれた。
全員が同時にスタートを切る。
だが、異変は次の瞬間に起こった。
ドサリとほぼ全員が倒れ込んだ。
『何が起こったのかあああ!?突如として、倒れ込んだ選手達!全員が…いや、一クラスだけ無事なようだ!クラス名は3−G!3−G独走だあ!』
3−Gと書かれたゼッケンの選手だけが走っている。
他の選手の首筋にはキラリと光る何かが。
「やられた…シイタケ、そっちは任せた!」
「疾風!」
歓声に紛れた疾風の声を何とか拾った時には既に疾風の姿は無い。
◆◇◆◇◆◇◆◇
疾風はある人物を追い、校舎の中に来ていた。口許だけは黒い布で隠し、4本の苦無を指の隙間に挟んでいる。
「ふふ♪待ってましたよ♪」
「まさか、あんなに堂々と忍針を使うとは思いませんでしたよ。月路先輩」
廊下の先には同じく口許を濃い緑色の布で覆った朧が待っていた。
「ふふ♪やはり、貴方が一番の障害ですね♪」
「退く気は…ありませんね」
「ええ♪私も疾風さんは大好きですけど、今日限りは譲る気はありません。それに今日は本気でやれそう…♪」
朧が艶やかに呟いた瞬間、疾風が瞬く間に苦無を放つ。
朧も残像を幾つも残しながら、それを躱し、今度は逆に忍針を飛ばした。
「この狭い空間では、自慢の足は力を発揮できませんか?」
嘲笑うかのように朧の針が疾風を襲う。
疾風は紙一重のところでそれを躱す。
「行きます」
朧が急激に間合いを詰めた。その手には投げていた針よりも太く長い針が握られていた。
その針を疾風目掛けて、突き出した。
疾風はそれを間一髪で避けると、一端間合いを切って、本来ならば学校最速の足を使い、朧に迫る。
だが、朧はクスリと笑うと闘牛士のようにひらりと疾風の突進を躱した。
「ふふ…♪」
疾風は急ブレーキをかけると、廊下を滑るようにして反転した。
「お疲れのようですね」
朧のそんな言葉も耳に入らない様子で疾風は再び地を蹴った。
廊下を斜めに走り、壁際にいる朧を狙った。
無駄と言わんばかりに、朧はまたひらりと躱す。
だが、疾風は勢いを殺そうとせず壁に向けて走った。
地を蹴り…
壁を蹴り…
そして、天井を蹴る。