刃に心《第18話・戦、始まりて…激闘編》-4
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
その笑顔を確認した疾風はそう言って、歩き出そうとする。
「ど、何処に行くのだ?…私の側にいて、守ってくれるのではないのか?」
楓は思わず不安そうな声を出した。
「実はさ、シイタケから裏の仕事を頼まれてるんだ」
「裏?」
「そ。後、万が一に備えてこれ、渡しておくから」
疾風はバッグを漁ると、小さなイヤホンのようなものを楓に渡した。
「小型無線。シイタケにも渡してあるけど、何かあったら連絡して」
「………」
「どうしたんだ?」
「…何かあったら必ず守るのだぞ」
「依頼承りました♪」
疾風はそう言うと、シュバッ…と忍者らしく消えた。
「疾風…」
楓が呟いた名前は風に乗って、澄んだ、何処までも続く高い秋空に吸い込まれていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
校舎内の階段を一陣の黒い影が吹き抜けてゆく。
校舎棟に人知れず侵入した黒い忍装束を着込んだ疾風である。
その内に数々の暗器を仕込んでおり、結構な重さにも関わらずその速度はかなりのもの。
疾風が2階の踊り場を見上げた時、そこに疾風と同色の黒のフード付マントを着た刃梛枷が立っていた。
口許を覆い隠しているのも黒い布。右肩にはバットケースのような筒がかけられている。
「打ち合わせ通り、俺が補給路の確保、刃梛枷が敵への攻撃で行くぞ」
刃梛枷は無言で頷いた。
「じゃあな」
疾風はそのまま自らのクラスがある3階へ、刃梛枷は屋上へと駆けていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
涼風が吹く屋上。
その屋上に辿り着いた刃梛枷はフードを被り、ドアを閉めた。
グランドを一瞥すると筒を床に置き、開く。
中からは、解体された黒塗りの砲身やスコープが詰められていた。
それを手早く組み立て、出来上がった物はスナイパーライフル。
刃梛枷は完成したそれを俯せになったまま構え、弾を込めた。
「……北北西より微風、問題無し………スコープ感度良好………誤差修正値±1…」
静かに呟く。
グランドでは自分のクラスである2年E組が出る通常リレーの予選が行われている。
刃梛枷はスッと目を閉じた。閉じた瞼の裏で一人の姿が思い浮かぶ。
少し鼓動が高鳴り、少し気分が安らいだ。
刃梛枷は目を開け、スコープを覗き込んだ。
現在、クラスは3位。
引き金に指をかけると力を込めていく。
そして、スコープの限られた視界に暫定1位の手───正確にはその手に握られたバトンが飛び込んできた。
刃梛枷は引き金を引いた。
パキィンという音と共にバトンが宙を舞った。
射撃音は皆無。
続けて暫定2位のバトンが飛んだ。
そのまま、クラスは1位に躍り出てゴール。
『1位と2位のバトンが、な・ぜ・か!ぶっ飛んび、2−Eが堂々1位でゴォオオル!!
何故、バトンが飛んだのでしょうッ!?神か悪魔か、はたまた何処かに潜んだサイキッカーの仕業かああ!!』
司会がマイクを振り上げて叫び散らす。
その様子を見て、刃梛枷は一言。
「……作戦終了…」