刃に心《第１８話・戦、始まりて…激闘編》-3
「第一コース、失格ッスー。硬質ゴム弾なので、心配しなくてもいいッスよ。かなり痛いと思うッスけど」
顔を引きつらせた他の選手達の間を縫うように、救護班が担架を使って倒れた走者を運んでいく。
「次からは警告無しで発砲するんでよろしくッス」
開会式と同じように楓はあんぐりと口を開ける。
「まだ、これからだよ…」
疾風は楓の方ではなく、レースの始まったトラックの方を見て呟いた。
楓がその真意を問い質そうと瞬間、レースコースの中に幾つもの球体が転がり込む。
『おぉーっと！？突然、コースにビー玉の群れが乱入だあ！』
突然───しかも、カーブで起きた出来事だった為、暫定１位と２位が足を取られ、見事に横滑りしてコースアウトする。
後ろから来た者達はぴょんっとビー玉を飛び越えたり、無いところを選んで走っていく。
『スリップ！スリップ！暫定１位の３―Ｊと１−Ｂがスリィィイイッッップッ！それによって、３位だった１−Ｃが１位に浮上！
今年も日ノ土の体育祭は荒れに荒れる！無法地帯の名を欲しいままにしているぞお！』
コケた二人はようやく立ち上がって再び走り出したが、トップとの差は半周程開いている。
「これが、日ノ土高校体育祭」
「要するに…何でもありと…」
「うん。まあ、そうは言っても暗黙の了解、というか掟は存在する。
例えば、競技の大まかなルール───リレーならショートカットはダメとか。薬物───これは、去年どっかのクラスが弁当に下剤を盛ったせいで大惨事になったから使用不可。
後、命に関わることは禁止。
そして、これがある意味一番大事なんだけど…今日のことは決して根に持たない。
この四つが主な掟」
疾風はそう説明して、苦笑いを浮かべた。
「出鱈目だろ？」
「何か…青春に相応しくないな。熱意の大部分が副賞目当てだし…」
「まあ、楓も気をつけてくれよ」
「ああ…」
そう言うと、楓は黙り込んだ。何かを考えているようにも見える。
「楓？」
「な、なあ…疾風。も、もし私が危ない目に遭いそうになったら…その…守ってくれるか？」
楓は俯いたまま、僅かに声を震わせて尋ねた。
「当たり前だろ」
その問いに疾風は簡単に答えた。
その言葉は飾り気のない、聞きようによっては素っ気ないものだった。
だが、その何気なさが楓には嬉しかった。
これ以上言わずとも、身を任せられるような──そんな安心感が感じられる。
「ありがとう…」
楓の顔は俯いている為、疾風には口許しか見えなかったが、そこには嬉しそうな笑みがはっきりと浮かんでいた。
楓がもう少し顔を上げていれば、いい感じに紅に染まった頬も見えただろう。