刃に心《第18話・戦、始まりて…激闘編》-2
『儂からの副賞じゃ♪この中には福沢先生が十人おられる。打ち上げの費用にするがええ』
辺りから、「うおおおお!」や「きゃあああ」や「諭吉ー!!」、「ふくざわさいこー!!」といった雄叫び、雌叫びが沸き起こる。
『以上じゃ!』
荒々しくマイクをスタンドに突き刺すと、震えながら壇を降りていく。
『校長先生のありがたい訓示でした』
校長がパイプ椅子に座ると司会進行の教師が締める。
「………」
「…みんながあんなに気合い入れてる理由、判ったろ」
あんぐりと口を開けている楓に疾風が言った。
楓はそのままで、コクコクと頷く。
「…疾風…良いのか、アレで…?」
「…仕方ないんじゃない。それに一回経験してるから、もう慣れたよ。
去年、これ見たときは、来るとこ間違えたかな、って思ったけど…」
「…うむ、私も今ちょうどそれを思ったところだ…」
『では、体操後に競技に入りたいと思います』
かくして、優勝と福沢諭吉を目指す戦の火蓋が切って落とされたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ラジオ体操を終えた生徒達は、それぞれのクラスの控えテントに向かう。
「小鳥遊。競技を見ておいた方が良いぞ」
武慶がグランドの方を見るように促した。
白の石灰によって作られたトラック。
そのスタート地点には数名の選手が並んでいる。
『これより、通常リレーの予選を始めます。尚、ここからの司会進行は放送部がお送りします』
リレーには予選があり、幾つかの組に分けられ、そこでのタイムによって決勝に出る8クラスを決める。
「位置に付くッスよー」
小さな箱の上に乗った生徒が一方の手でピストルを握り、天に向ける。もう一方は、上着として羽織っているジャージのポケットに入れられている。
「よーい…」
地に両手を付けた選手の腰が浮く。
そして、空砲が鳴る前に一人の選手が飛び出す。
「あー、ストップ!第一コースの人、フライングッス。これは警告ッスから次は失格にするッスよ」
選手達は元の位置に戻っていく。
「位置に付いてーよーい…」
再び空砲が鳴る前に第一コースの走者が飛び出した。
───パァン!!
銃声が響き、飛び出した選手が倒れる。
箱の上で合図を出していた生徒のポケットに入れられていた手が出されている。
その手には、天に向けているピストルとは別型の黒光りする拳銃が冷ややかに倒れた選手を見つめていた。