刃に心《第17話・戦、始まりて…準備編》-5
「理解してくれてありがとう。では、女子。第一走者、鈴木美奈。第二走者、堂島圭織。二人は陸上部で場慣れしていると思った。この二人でスピードに乗りたい」
呼ばれた陸上部の二人は、少し恥ずかしそうに立ち上がった。
「第三走者、黒鵺刃梛枷」
刃梛枷は音をたてずに立ち上がる。
「アンカー、功刀千代子先輩」
突然、名前を呼ばれた千代子は思わず座っていた椅子から落ちそうになった。
「先輩は、ウチの女子の中でもトップクラスなんですから、よろしくお願いします」
「で、でも…アタシ…」
渋る千代子。すると、希早紀がこそっと耳打ちをする。
「…もしかしたら、疾風君がゴールで待っていてくれるかもしれませんよぉ♪」
疾風の名前にビクリと千代子の身体が反応する。
「…先輩、すごかったですね♪…俺、先輩が頑張る姿を見てたら…何だか…先輩!」
「シイタケ、アンカーはアタシに任せとけ!!」
希早紀に上手く乗せられた千代子が叫ぶ。
「現時点での俺の案は以上だ。何か意見はあるか?」
誰も意見を言わない。
武慶の案に隙は無いように思える。
「じゃあ、この8人でスウェーデンリレーを闘うことになる」
誰からともなく、拍手が起こり、部屋中に響いた。
「では、後は適当にダベろう」
「はいは〜い、お菓子もあるよ〜♪」
武慶がファイルケースに書類を詰める横で、希早紀が菓子類を広げ出す。
「疾風!アタシ頑張るからな!」
千代子が板チョコを手に持ちながら、疾風に近寄る。
「はい、期待してますよ♪」
「うん♪疾風も応援、頼むぞ!疾風の応援さえあれば、アタシは負けないから!」
熱の籠った瞳を向ける。疾風はそれに笑顔で応えた。
「私だって、障害物競争に臨むのだぞ!」
そんな様子を見た楓が負けじと言う。
「判ってるよ。楓も頑張ってくれよ。俺も助けるから」
「そう言ってくれると心強い♪」
今度は服の裾が引っ張られた。振り向いたその先には案の定、刃梛枷。
「……私も頑張る…」
「刃梛枷は2種目出るんだよな。大変だな」
「……大丈夫………貴方が応援してくれるから…」
刃梛枷は軽く微笑んだ。稀に見ることのできるレアな表情だ。