刃に心《第17話・戦、始まりて…準備編》-4
「ま、待て…そんなこと私は…」
「情報は力なんだ。知らなかった小鳥遊が悪い。諦めろ」
「疾風ぇ〜」
「大丈夫、死ぬことはないからさ。それに」
疾風が楓の耳に口を近付け、そっと囁く。
「…俺が全力で楓を助けるから」
楓の顔が急激に紅くなる。ぼふん…と湯気が立ち上ぼりそうなくらいだ。
「な!」
顔を離すと疾風は楓を励ますように力強く笑った。
「ぜ、絶対だぞ…」
上手く回らない口を精一杯動かして楓が答える。
「よし、我がクラスの勇者も決まった。最後の種目を決めるぞ。彼方」
「はいよ」
彼方が一枚の紙を手渡した。
「最後に決めるのは、男女のスウェーデンリレーだ」
スウェーデンリレー。
100メートル、200メートル、300メートル、400メートルと後の走者になるにつれて、距離が増えていくというやつだ。
ちなみに、通常リレーは全員200メートルである。
「みんなのタイムと、競技の順を考慮してとりあえず俺が決めた。後でみんなの意見も聞くから、まずは俺の案を聞いてほしい」
騒がしかった空間が、しん…と静まり返る。
「まず、男子。第一走者、田中彼方」
辺りがざわつく。
「俺じゃ不満なのかー!!俺だって伊達に女の子を追い回してるわけじゃねー!!」
彼方は勢いよく立ち上がった。
「あー、みんなの不安もよく判る。現に俺も不安だ。だが、こう見えて彼方は結構いいタイムを叩き出している。持久力やペース配分は苦手だが、その分爆発力はある。それを考えて最初にもってきた」
武慶の論理的な説明に皆は、なるほど、といった表情で頷いた。
「ポカするなよ」
「おうよ!俺の実力見せてやる!」
若干不安な表情の武慶に彼方はガッツポーズで答える。
「続いて第二走者、間宮ヒロシ。第三走者、間宮ユウ」
双子は同時に立ち上がった。
「二人はタイムも良い。加えて、パスでその速度を落とさない息の合ったコンビネーションにも期待できる」
おぉ、と誰かが感嘆の言葉を漏らす。
「そして、最後アンカーだが、俺、椎名武慶だ。客観的にタイムを見た結果、俺が此所に入るのが一番だと思ったのだが…良いか?」
武慶はクラスメイトを見回した。
武慶の運動神経の良さは周知の事実である為、異論は無さそうだ。
誰もが期待の籠った目で見ている。