まやかしの安心-6
「あれ、お前の親父?」
「……うん」
湿り始めた下着が気持ち悪い。
「ずいぶん若いんだな」
「血は繋がってないの」
「そうか」
帰るまで耐えられる気がしない。
「いい親父か?」
どうしてそんなことを聞くのか、分からなかったが頷くしかない。
「……ところでお前、ヘンだぞ?」
その瞬間がくりと膝を折る知伽に、慌てて手を差し出した徹だったが、腰に響く振動でばれるのが怖くて、知伽はその手を振り払った。
「ご、ごめん、大丈夫だから!」
これ以上耐え切れない。知伽は驚く徹を置いたまま、駆け出した。
席についても落ち着かず、机に突っ伏している知伽だったが、恵の声に顔を上げた。
「知伽、お早う。元気ないねえ」
「へへ……ちょっとね」
頼りない笑みに、恵も深刻な顔になる。
「顔真っ赤!熱でもあるんじゃないの?」
「大丈夫だよ。それより……」
恵と取りとめのないテレビの話をしていれば、少しは気が紛れると思ったが、じわじわと迫り来る快楽は忘れられそうにない。
授業開始のチャイムがなり、去り際に恵は呟いた。
「何かあったら、ちゃんと言いなね」
言えないよ、こんなこと。知伽は、ごめんねと答えた。
授業に集中できるはずもなく、ひたすらに神経に力を入れて耐えていた。膝の振るえが止まらない。すでに、何度か軽くイっていた。
静かな教室の中で、衣服を脱ぎ捨てて男の熱いモノを求めたい衝動に駆られる。時計の針が進むのが遅い。
荒い息を抑えながら、にじみ出る汗を拭う。
そう言えば、徹はどうしているだろうかと姿を探す。朝、手を振り払ったまま来てしまったきり、謝る機会を失ったままだ。
徹の後ろ姿が、しかし知伽の目には、性欲の対象としか映らない。こんなことではダメだと自分を戒め、教科書に目を落とす。
これに耐えれば、勇一は解放してくれる。その言葉にすがるしかなかった。
ああ、またイク……。漏れそうになる声を必死に抑えていたところ、知伽の名前が呼ばれた。
「黒板に出てきてこの問題を解いて」
「あ……」
力をなくした膝は、言うことを聞かない。快楽が頭に響き、意識はとうに授業になかった。
「三枝さん?」
クラス中に見守られ、教壇に上がった瞬間にイってしまうのではないだろうか。想像
しただけで、抑制が弱まってしまう。
「三枝さん、早く出て来なさい」
観念して立ち上がろうとした知伽の額に、誰かの手が当てられた。
「うわ、すげえ熱!顔真っ赤だし!」
その声は、徹だった。
「先生、こいつ保健室に連れて行くわ」
「大丈夫、三枝さん?」
確かに、知伽の顔は熱かった。
「すぐに連れて行ってあげて。でも、神崎君は早く戻るのよ」
「ち、ばれたか」
クラス中が笑う。視線が徹に向かったことで、知伽は少しだけ安心した。
「神崎君、さっきはごめん」
「そんなことより、大丈夫なのかよお前」
怒っていなくて良かった。知伽は胸をなでおろして足元に視線を落とし、はっとした。
愛液が脚の内側を伝い、滴り落ちていた。
「……や……」
徹の視線も、同じものを捕らえていた。
「ごめん、私……」
恥ずかしさでいっぱいになり、逃げ出そうとする知伽の腕を、すんでのところで徹は捕らえた。
「待てよ!お前……」
「お願い!放して!」
激しく動いた拍子に、擦れて絶頂を迎える。
「い……いやああああっ!!」
がくがくと膝を震わせて、全身を預ける知伽の身体を徹はしっかりと支えた。
「……三枝、来い!」
半ば引きずるように知伽を歩かせ、徹は保健室とは反対の方向に足を運んだ。
音響室と書かれた分厚い扉を閉めて、明かりを点ける。暗幕はすでにかかっており、部屋の様子が外から見えることはない。
「見せてみろ」
力なくへたり込む知伽にそう言いながら、徹ははっと口を閉じる。
「……いや、見せなくていいんだけどさ、俺後ろ向いてるから、どうにかしろよ」
まさかバイブが入っているとは思わなかったが、何かがあるのは勘付いていた。徹は後ろを向くが、知伽が動く気配はない。
「ああ、俺までここにいる必要はないよな」
慌てて出ようとする徹を、か細い知伽の声が制止した。
「待って……ダメなの……外すわけにはいかないの」
そう言って、スカートの端をめくってみせる。
徹は、ゆっくりとスカートを持ち上げた。
びしょ濡れになった白いショーツが、小刻みに震えている。