まやかしの安心-4
小テストはさんざんの結果だった。勉強していないのも去ることながら、テスト中も
勇一との行為が頭を離れなかった。
昨夜、遅く帰った二人を見て裕美子は当然何があったのかと尋ねたが、勇一は平然と、学校から熱が出た知伽を迎えに来るよう電話があったのだと言ってのけた。確かに知伽の頬は上気していたし、信じるに値するものだった。
「珍しいね、知伽そんなに成績悪くなかったじゃない」
恵が机に腰をかける。
「うー…かなり白で出しちゃったから……」
どんよりと沈む知伽だった。
「昨日は全然勉強しなかったわけね。何かあったの?」
公園での情事を思い出し、知伽は言いよどむ。不審に思った恵の横から、徹が口を出した。
「昨日は7時過ぎまで居残りさせられたんだよな。勉強どころじゃねえって。足立に進言しねえ?俺達公務でこーゆー結果になったわけだから、ちょっとぐらいは下駄履かせろって」
「何言ってんの、神崎はいっつも悪いじゃない」
徹の口ぞえに、知伽は胸を撫で下ろす。こんなんじゃお母さんにもばれちゃうじゃない、と焦った。
「これで日直終わりだね」
日誌を書きながら、知伽はぽつりと呟いた。
「二日じゃん」
「そうだけど」
徹は窓の外を向いたまま。
「退屈じゃない?」
「書くよりマシ」
短い返答。会話が続かない。
「私書いて先生に渡しとくから、先帰ってもいいよ」
他の仕事は終了していた。報告である日誌はどうしても最後に残ってしまう。
「ついでに最後まで付き合うよ。それにお前の白状な親友、もう帰っちゃったんだろ?」
「ほんと、白状者……」
朗らかな笑みすら振りまいて、さっさと帰った恵の後ろ姿を思い出してため息を吐いた。
「俺も行くよ」
立ち上がる徹と連れ添って職員室に日誌を提出し、学校での一日が終わった。
知伽は知らなかったが、知伽の家は徹の家までの帰り道にあった。結局最後まで付き添うことになり、ありがとうと言って別れた。
「ありがとうって、何だよ。単なるついでだって」
徹は笑って手を振った。
家に入ると、リビングから裕美子が顔を出す。
「あ、ただいまお母さん」
「知伽?」
「うん」
靴を探すが、勇一はまだ帰っていないようだった。どことなく哀しげな母親の表情に、胸が痛んだ。
電話が鳴る。すぐ傍にいた知伽が受話器を取る。裕美子が小さく声を上げたような気がしたが、知伽はすでに受話器を取ったあとだった。
昨日と同じ男の声だった。すぐに知伽は受話器を渡す。
「お仕事の人から」
「ああ、ありがと」
小声で話す裕美子を気にもかけず、知伽は2階の自室へと上がって行った。
母親の顔を直視して、罪悪感はますます高まる。それでも、知伽の中の女が勇一を拒
絶するには至らなかった。
知伽が部屋に入ってすぐに、玄関の扉が開く音が聞こえる。勇一が帰って来たのだと思うだけで、身体が疼いた。
しばらくして、扉がノックされた。返事も待たずに入って来るのは、勇一しかいない。
言葉もなく知伽を抱きしめ、ついばむような口づけ。
「お母さんは……?」
「今出て行ったよ」
そのまま二人は、ベッドになだれ込んだ。既に知伽の頭からは、母親の哀しげな表情は消えている。
それでも、頭の端に浮かんだ疑問を口にする。
「もしかして、あの電話お父さん?」
「知らないよ。そんなことより……」
突然強く胸を掴まれ、思わず呻く。まだ成長している胸は、独特の痛みに歪んだ。
「痛っ……お父さん?」
「さっきの男、知伽の彼氏?」
「違うよ!日直だったの……」
憎しみすら帯びた眼差しからは、尋常でない雰囲気が感じられ、知伽は強く否定した。
まさか、見られているとは思わなかった。悪いことをしているわけではないのに、引け目を感じる。
「可愛い娘をとられたくないんだよ」
すぐに優しい笑みに戻る勇一を見て、知伽は安心した。しかし、勇一の中に滾る想いは、消えたわけではない。
後ろ手に持っていたロープを使って、知伽の腕をベッドの柵に固定した。
「何!?何するの!?」
「いつも同じじゃ飽きるだろ?」
その手に握られているのはピンク色のバイブだった。イボがリアルで、初めて見た知伽はグロテスクだと感じた。
ベッドに貼り付けられたままの知伽の秘唇とバイブにたっぷりとローションを塗りこむ。
「俺がいない時は、独りで慰めるんだぞ」
多少の抵抗にあいながらも、ぬぷりと音を立てて知伽の中に沈んだ。
「あうんっ……」
挿れただけで、知伽の暗い穴からは涎が滴り落ちる。勇一は笑みすら浮かべて、そのスイッチを入れた。
低い音を立てて、肉壁に振動が伝わる。知伽は身を捩った。