有無-1
俺の彼女は、時々…おかしなことを言う奴だ。
「ねぇ、シュン…もし、もしもだよ…?
私が…死んでるって言ったらどうする?」
ハルが、俺にそう問い掛けてきたのは、とある夏の午後のこと。
──俺の恋人は、少し変だ。
基本的には、普通の女なのだが…稀に、今のような、いわゆる“変”な事を言い出す。
“もしも私が、いなくなったら”
“私が人を殺したら”
“もしも明日…自分が死ぬなら……”
ただの友達だった頃からずっと……だが、付き合い始めて、余計に酷くなった様に思える。
「……はぁ…有り得ないだろ、そんなこと。お前は、死んでないよ」
無関心で、いつも通りに…携帯をいじりながら答える。
「有り得ない、なんて言い切れないじゃん」
「言い切れるよ。
お前は、今、ここにいる」
──これ以上に、何が必要?
俺は、溜め息を吐きつつ苦笑する。
「……自分の見ている物の全てが…本物だと思ってるの?」
優しさの中に、ほんの少しの嘲りを含んだ言葉に…俺は、ボタンを押す手を止めた。
「なんだって……?」
ハルは、気にした風もなく、当然といった様子で続ける。
「私が幽霊だとしたら、どうするの?」
「……幽霊?」
「そう。
シュンには、霊感があって…本当は、死んでる私が見えてるの……」
言う事が、俺の弟たちに似ている。
これだと、まるで…餓鬼の屁理屈だ。
「もしそうだとしても、死んでるんだったら、幽霊とか云々の前に葬式とか色々あるだろ。そんなのなかったよ」
「じゃあ、シュンが…そのことを忘れているとしたら?」
“じゃあ”って…
今日のハルは、やけに食い下がってくる。
いつもなら、こういう“変”な問い掛けに…俺が“普通”な答えを出して…笑って納得するのに……
何かが……いつもとは、違っていた。