たったひとこと【第5話:恋のライバル・サバイバル】-1
「どういうことだ?お前達には娘の回収を命じた筈だが」
重苦しい空気がたちこめる今時珍しい純和室。薄暗い電灯が兜や日本刀を照らしている。
その上座であぐらをかく黒髭の着物の男。
「い、いえ、それが、お嬢が恋人だという男を連れてたものですから」
「恋人、だと?」
男は手に持っている扇子でぴしゃりと畳を打った。
「それでおめおめ戻って来おったのか!」
「ひいいっ、し、しかしお嬢はまだ」
「ふん。どうせ娘のお守りが面倒で、抜ける口実を探しておったのだろう。もうよい。若頭に連れ戻すように伝えよ」
男達は顔を見合わせる。
「お、お言葉ですが若は、その、昨日から女と海に行っておりまして・・・」
男は深いため息をついた。
「バカ息子が・・・」
第5話:《恋のライバル・サバイバル?》
「・・・そこで言ってやったよ。『お前はムスカか!』ってな」
決まった。
計算通りの大爆笑。
あんな変なことがあった朝にも、いつも通りネタが出来る自分はちょっと天才じゃないかと思ってしまう。
それにしても妙な朝だった。
見ず知らずの女の子に(強制的に)恋人にされたかと思うと、男達は帰っていくし、女の子もいつの間にか姿を消していた。
「すぐに会いに行くからな♪」
という謎の言葉を残して。
おかげでせっかくの詩乃との楽しい登校も気まずいまま終わってしまったのだ。
せっかく詩乃に急接近するチャンスだったのに・・・
「あっはっは、面白いな―、お前。流石はオレの恋人だ」
そうそうこんな声で・・・アレ?
聞き覚えのある声。
というかついさっきまで聞いていた声が・・・
振り向くと手を頭に回して教卓に座っているガ―ルが1人。
「何でお前が学校にいるんだぁ―!!?」
理解不能。意味不明。僕の頭はパンク寸前。
「すぐ会いに行くって言ったじゃんか♪」
「お嬢さん、こんなムサい教室は飛び出して、僕と一緒に愛をプロデュ―スしませんか?」
女の子の手を取り口づけを交わそうとする一平。
が、夢も束の間、他の男子に引っ張り出され
「お前が一番ムサい男だろ―があ!」
「何抜け駆けしてんだテメェ―!」
「ギャ―――!きゅっ急所っ、そこは止めて―!」
廊下の外から聞こえる友の断末魔・・・哀れ、一平。