たったひとこと【第5話:恋のライバル・サバイバル】-6
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流々花が静かに口を開く。
「オレさ、家族が極道、つまりヤクザなんだ。で、結婚出来る16になったらウチの女は別の組に嫁ぐシキタリになってる。時代錯誤もいいとこだろ?」
顔は笑っているが、その向こうは恐怖で引きつっている。
「でも16になるまでは自由恋愛。だから恋人を作れるのも明日のオレの誕生日までなんだ」
「・・・」
「・・・最後ぐらいは普通に恋愛したかった。男兄弟の中で育っちまったから男勝りなとこもあるけど、オレも女の子だからな。でも人はすぐに好きになれるもんじゃない。今分かった」
学校に背を向ける。あまりにも小さいその背中。
「成之には迷惑かけたな。悪かった。もう会わない。じゃあな」
本当はナイフからオレの指を離してくれた時、胸がきゅっと締めつけられたんだけどな
あれが初恋、だったのにな
「待てよ!」
流々花の手を取る成之。
「・・・成之?」
「お前はそのことちゃんと親父さんに話したのか?理解してもらおうとしたのか?」
「・・・」
「好きな人がいても、好きだっ、って一言が言えずに家に帰って落ち込む機会さえないなんて・・・淋し過ぎるぞ」
詩乃の心がずきりと痛む。
「だからっ、一回ちゃんと話してみろよ!なあっ!」
「・・・成之」
その様子を地面越しに聞いていた一平は
「・・・待てよ」
砂だらけの顔のまま立ち上がる。
「成之は詩乃ちゃんとくっつくやろ。てことは流々花ちゃんはまだフリ―!?おっしゃあ!ツキが向いてきたでえっ!」
相変わらずの節操のなさで突っ走る一平・・・
ごつん
「いったぁ―――!」
「いい加減、好きな女をコロコロ変えるのは止めろ。だからモテないんだ」
結局、グ―パンチを喰らうのはこの男。
「殴ることないやないか―うわ―ん」
「そこの漫才師がお前の男か?」
校庭に立っているやる気のなさそうな男。
推定伸長190センチ。金髪の長髪が落ちないようにサングラスで留めている。
その雰囲気は遊び人のようでもあるが、不思議な貫禄も兼ねている。