たったひとこと【第5話:恋のライバル・サバイバル】-5
「成之、コイツ誰?」
けろりとした表情で『コイツ』を指さす流々花。
しかも、もう片方の手はしっかりと成之と繋がっている。
「あ、いや、これは逃げる時に転んだりしたら危ないし・・・」
手を振り払って弁解を始める成之を無視して、その目は思いっきりライバルを捉えていた。
流々花もなんとなく怒っている原因に気づき睨み返す。
「アナタ、誰よ?」
「お前こそ誰だよ。名乗る時は自分からって教わっただろ?」
かちん
「・・・アタシは詩乃。成之の幼なじみよ!アンタなんかよりずっと長い付き合いなの!」
「オレは流々花。藤堂流々花だ。成之の彼女♪」
「なっ!?成之・・・そうなの?」
じいっと見据える詩乃。
「違うっ!彼女じゃ」
「成之はオレのことキライなのか?朝の口づけは嘘だったのか!?」
「!?口づけ!?」
成之を睨みつける。
「口づけって何!?」
「いや、あれは、強引に」
「したの!?」
「ほ、ほっぺだって!子供がするようなキスだし」
「お前は成之とキスしたことないんだろ?」
流々花の質問が2人の脳裏にあの密室が浮かばせる。
途端に2人共耳まで真っかっか。
「え・・・まさかあるのか!?」
「い、いやあ、ぎりぎりだって、なあ!?」
「そ、そうよ、寸止めよ!キスまではいってないもん!」
あたふたする2人をしばらく見つめ、一息ついて満面の笑みで言った。
「じゃっ、も―い―やっ、おしまい♪」
「へ・・・?」
○○○○○○○○○○○○
「おいしい?」
「・・・美味い」
「良かった―♪この卵焼きすごく気合い入れて作ったんだ♪」
「・・・」
音もなく2人の髪を揺らす風。屋上の幸福な時間がのんびりと過ぎる。
食べ終わり、箸を置いて青空を仰ぐ。
「お泊まり楽しかったね。また今度みんなで」
「でねっ、マリ姉の風紀委員の刺繍、また大きく・・・」
「・・・なあ」
「ん?」
「くるめは俺と」
「え?」
「・・・いや、沖が面白い話をするから俺も毎朝大変なんだ」
髪をくしゃっとかく六呂。
「ふふっ、どうせ笑うの我慢してるんでしょ?素直になればいいのに」
青空から地面に目を落とす六呂。
「・・・ああ、そうだな。もっと素直に・・・なれたらな」
どこまでも、青い青い空。