たったひとこと【第5話:恋のライバル・サバイバル】-3
「センコ―!!テメェ何流々花ちゃん泣かしてんだよ!」
「一緒に勉強すりゃいいだろうが!可哀想じゃねぇのか!」
「名前のねえお前が出て行けコラァ!」
男子の息のあった抗議にクラス中がすごい熱気に包まれる。
「でっでも我が校の生徒でない者が・・・」
「・・・うるさい」
窓際の後ろの席から六呂が睨みつける。単純に耳障りだったからそう言っただけなのだが、教師にとってはトドメとなった。
「・・・ハイ、もう好きにしてください。ぐすっ、名前は関係ないだろ・・・」
最高裁で勝訴を勝ち取ったが如く揺れる1−D。
呆れている成之にペロリと舌を出して応える流々花。
「楽しい1日になりそうだなっ♪成之♪」
うわあ、すごく不安・・・
○○○○○○○○○○○○
「成之さんに彼女、ですか?」
屋上。昼休み。今は彼女達3人しか来ていない。
「さっき一平がそんなことを言いながら走り回ってるのを見かけたんだ。またあのバカのつまらん冗談だと思うが」
「詩乃一筋の成之さんがそんなのあり得ませんよ」
しかし、詩乃の頭の中は今朝の少女が走り回っていた。
もしかして、いや、きっとあの子だ・・・
「心当たりでもあるのか?」
「ひぇっ!?はっはいぃ!エビフライは大好きですぅ!」
不意に核心をつかれて脳内回路逆回転。
「・・・聞いてねえよ。にしてもアイツらまだ来ないのか?昼休み終わっちまうぞ?」
言い終わらない内に扉が動いた。
詩乃の心臓もどくんと動く。
「成之っ、あのっ、聞きたいことが・・・」
そこに立っていたのは六呂。他に人影は見当たらない。
「あれ・・・えと成之は?」
「・・・朝から変な女に付き合わされている。今頃は・・・」
校庭を指さす六呂。怒号が大きくなり、やがて暴徒と化した生徒から逃げている成之が見える。
上から見ると、まるでレースをしているようだ。
しかも暴徒達の先陣をきっているのは一平・・・
「生かすな―――!幸せモンは八つ裂きや―――!」
応える首尾の怒号。
「何やってんだ、あのバカは・・・」
「あっ!」
よく見ると成之は1人で走っているのではない。
ぴったりと噂の彼女がついて来ている。
しかもその手をしっかりと繋いで。
「な・・・あ・・・のよ」
身を震わせる詩乃。
今日は成之にお近づきできると思ったのに・・・
「なぁ―んであんな女が成之と一緒なのよ―――!!!」
あまりの声量に時計に止まっているカラスがバサバサと飛び立つ。詩乃の髪も心なしか逆立っているように見える。