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『狂代』
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『狂代』-1

私はまだ、この人の事を「にいさん」と呼んでいます。
 
 
俺は今でも、この娘から「にいさん」と呼ばれている 
 
私は一人の男性として、ずっとこの人の事が好きだった。
でもこれは許されない気持ち、あってはならない感情。
姉がいた。
姉さんもこの人の事が好きだった。
姉さんの思いはちゃんと通じた。ちゃんと伝えた。
並んで歩くのを周りが見たら、きっとお似合いの二人だと思うだろう。異性なら誰もが振り向くような二人。
私は姉さんのようにはなれない。姉さんの代わりにはなれない。
 
 
容姿はとても似ていたと思う。でもこの娘には、彼女のような気丈さも活発さも無かった。
はかない、そんな言葉がとても似合っている。守りたくなる、抱きしめたくなる。この感情だけは隠さなければいけなかった。
もちろん、初めからあの姉もこの妹も俺の事を好いてくれていたのは知っている。
 
 
姉さんは、今はいない。
いないから、私がここにいる。代わりなのかも知れない、それでもいい。
私はここに立ちたいと願う。だから、姉さんがいない事になんの疑心も悔恨も抱かない、絶対に。
 
 
彼女が嫌いだった訳じゃない、それ以上にこの娘が好きだったから。
このままが良かった、このままの関係が良かった。この娘を守りたいと思った。この儚さを守りたいと思った。
いや、思っていた、最初からだ。結ばれたいという気持ちはこの上に成り立っていた。
だから俺は彼女を。
 
 
姉さんがいなくなってから、それほどたたずに私は私達になった。
二人だけの秘密であったはずなのに、ずっと隠すのは無理だった。嘘をつくのは簡単だけど、つき続ける事は出来なかった。誰からも祝福されず、私達はひっそりと暮らさざる得なかった。 
 
 
彼女の事は、誰もが不信や疑念を抱いた。
だってそうなのだから。
この娘との事を知られるのも時間の問題。
穴だらけで、まるで針の上に立っているよう。恐かった。あまりにも、自分の思い通りに物語が進む事が恐かった。
何より恐かったのはこの娘に嫌われてしまう事。きっと、知っている。俺が何をしたか。
それでも離れる事はできない。
 
 
彼が姉さんに何をしたのか、知っている。そんな事関係ない。どうでもいい事。なんで?なんて思ちゃいけない。
私がどうしようもないくらい彼が好きだから。
 
 
俺は−

私は−

−あなたの事を愛しています。
相姦なんかじゃない。二人には血の繋がりはないのだから。誰も認めてくれなくても二人だけの世界は廻り続ける。
 
 
私は今でも、この人を「義兄さん」と呼びます。
 
 
俺はこの娘の姉を殺した。俺の考えたストーリーに沿って。狂っているとしか言われようのない。
俺はまだ、この娘に「義兄さん」と呼ばせている。


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