空事乙女-1
「長うお待たせいたしました。えろお久しゅうございます。」
「お京、また随分と焦らしてくれたもんだ。」
お京と入れ違いに出ていく郭女の襖を閉じる細いうなじを見遣りながら緩んだ藍染の袂を直すと、男は杯を揚げる。
「旦那がお待ちとあっちゃ白粉叩くのにも気が入りんす。」
つつと杯を満たして、お京は吊りがちで大きな目の端を片方だけ上げて見せる。
「化粧も世辞も上手くなったもんだ。ほれ、こっちさこんか。」
注がれた酒に口を付けることなく、男はお京の手を取った。
「野暮とせっかちはお足が有ったってもてやしないよ旦那。」
掴む手に手を添えてゆっくりと剥がし、お京はそれでも男の腕の中に滑り込んだ。
「お京、池屋の天神ともなると俺如きは相手にならんかい。」
お京の盆の窪から薄らに香が立ち、男の鼻を擽る。
「またいけずおっしゃる。呉服問屋の若旦那がなにいいなはるやら。」
お京の目は徳利の胴を伝う雫を追って膳に落ちる。
「じゃぁなにか、最近ご無沙汰しとったんを拗ねとんのか。」
-ふっ。-
と浅い息を吐くお京。
「今ごろお気づきかいなこの野暮天。白粉云々は嘘っぱち。こちとらダンナのお越しでうずいてうずいて。」
-なんならご覧になりますかい-
加えてそう言うとお京は男の腕の下から手を延ばし、下帯の脇から摩羅を強く掴んだ。
-うっ。-
呻きとともに腰を引く男に構わず、掴む手を上下させながらお京はもう片方の手を後に回し、下帯を解いていく。
「おや、うれし。もう芯がある。」
「なん…だいきなりっ」
お京の手の中で硬度を増していく自身とは反して、男は力を抜いて成すが侭になっている。
「お京の手ぇでされるんは嫌かぃ」
お京は男に目を合わせたまま両手をぺろり、ぺろりと舐め、つばきを塗り込むように先端を弄ぶ。
心持ち強く、しかし痛みを誘わぬ様に摩擦する。
「そんなに…これが好きかっ。」
男は切れ切れに言うと、反撃を始める。
緩く結ばれただけの帯を更に緩め、合わせから手を差し込む。
泡立てた卵白の如き肌理と、飴湯を掴むような双丘の肉感を楽しみ、片手間ではもったいないと服のあしらいに長けた男は肩を抜いて胸から上をはだけさせる。