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「宇受賣神社の巫女」
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「宇受賣神社の巫女」-9

第3日目 祭

 昨夜、明け方まで「夜神楽」が続いたため、昼頃まで泥のように眠り込んでいた那美は、境内が騒がしくなる音で、やっと目が覚めた。
 笛や太鼓が、昨日の妖しい激しさから一転して、浮き浮きとした楽しげな音色を奏でている。障子を少し開けて外を覗くと、境内が注連縄などで飾られ、あちこちで夜店が準備をしている。
「お祭り…、みたいね…」
 そう呟いた時、美沙子が現れた。那美はなんとなく美沙子から視線を逸らした。昨夜のことが恨めしくもあり、恥ずかしくもあった。
「お目覚めのようですね。」
「今日は、お祭りなんですか?」
 視線を障子の方に向けたまま、那美が尋ねる。美沙子は彼女の後ろに座って、優しく髪を梳りながら答えた。
「ええ。16年ぶりに巫女が戻って来られたお祭りですわ。」
 振り向くと、美沙子はにっこり微笑んでいた。どういう形であれ、自分のことを大切にしてくれる相手には違いない。那美もぎごちない笑顔を浮かべた。
 食事を済ませて社務所の玄関に出ると、そこには3人の娘が控えていた。那美と同じ年頃の娘たちで、いずれも那美と同様、全裸である。那美が現れると、娘たちは一斉に土間に正座して、深々とお辞儀をした。
「巫女の従者に選ばれた娘たちです。新たな巫女を迎えた時には、村の娘を選び、従者として仕えさせることになっております。」
 美沙子が説明した。娘たちは、自宅で着ているものを全て脱ぎ、恥ずかしさを堪えて、神社までの道程を裸で歩いて来たと言う。従者に選ばれるのは大変な名誉で、村でも指折りの美少女が選ばれるらしい。確かにいずれも甲乙つけがたい可愛い娘であった。娘たちは、憧れと尊敬を込めた目で那美を見ている

「よろしくお願いします。」
 那美が頭を下げると、娘たちは慌てて土下座した。
 社務所の外では、十数人の法被姿の若者が待っていた。若者たちは手に手に、笛や太鼓などの鳴り物や、幟旗を持っていた。
「おっ、出ていらしたぞ。」
「見ろよ、本当に美しい、可愛らしい巫女様だ!」
 まるでアイドルの追いかけをするファンのように、若者たちは那美を取り囲んで大騒ぎをした。那美は恥じらって体を丸くしたが、若者たちは彼女の肌をじっと見るだけで、決して手を触れようとはしなかった。彼女はあくまで崇拝の対象なのだ。
「さあ、参りましょう。」
 「天之宇受賣尊」と書かれたひときわ立派な錦の幟を持って、顔立ちのキリッとした背の高い若者が号令をかけた。彼らは村の青年団で、錦幟の青年が団長だと言う。ここから、山腹の、宇受賣の社まで行列を組んで歩くのだ。
 幟旗と笛、太鼓に挟まれて、全裸の那美と従者の娘たちが進む。
 笛と太鼓の音を聞いて、お祭りにやって来た氏子や見物客が続々と参道に集まって来た。参道にずらりと並んだ人々に見られながら、行列はゆっくりと進んで行く。 
(いやだぁ…、ちょっとぉ…、恥ずかしい…)
 胸と下腹部を両手で隠した那美は、消え入りたげに顔を伏せ、羞恥で全身をピンクに染めて歩いていく。いやらしい目で見られているのでないことはわかってきたが、そもそも見られることに慣れていないし、それに、やはり裸を見られるのはどうあっても恥ずかしい。
 従者の娘たちは、那美ほどではなかったが、それでも恥ずかしそうに身体を庇いながら、後に続いた。顔見知りの若者が多いのか、沿道よりむしろ、一緒に歩いている青年団の視線を気にしている。

 宇受賣の社に着くと、青年団の若者たちは一人ずつ桶を持って、境内の井戸から水を汲む。そして、自分が浴びたあとで、那美に井戸水を浴びせかけた。氷のように冷たい水をかけられて、思わず那美は悲鳴をあげる。
 濡れて震えていると、若者たちは我先に法被を脱いで、那美に掛けてくれた。彼らは姫君を護るナイトなのである。
 青年団が見守る中で、濡れた法被を脱いだ那美は、社殿に向かって祝詞をあげ、玉串を捧げた。
「それでは、こちらにお掛けください。」
 参拝を終えて青年団長が示したのは、蒔絵で飾られた肘掛け椅子の前後に担ぐための棒が付いた輿だった。彼は藁で綯った縄を手にしている。


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