「宇受賣神社の巫女」-5
「…このように一糸まとわぬ赤裸にて、全山の社と祠を巡り、世俗の汚れを祓い清めた末に、アメノウズメノミコトの転生として…」
老人の講釈は一向に終わらない、その間にも、ぞくぞくと人が集まって来て、那美は自分が珍獣か何かになったような気がした。
「お参りいたします!」
老人の講釈を遮るように、大きな声をあげてそう言うと、那美は玉串を手にして、祝詞をあげ始めた。
無遠慮な参拝客に見られないよう胸や下半身を押さえていたかったが、作法がきちんと決められており、祈っている最中、それは許されない。
手を離すと、眩いような白い胸の膨らみと、幼女のようにつるつるに剃り上げられた下腹部が露わになった。参拝客は瑞々しい裸体を固唾を飲んで見つめている。
「…祓いたまえ、清めたまえ…」
集まった人々が見つめる中、体を晒しながら、祝詞をあげ、玉串を捧げた。
那美の祝詞に合わせて参拝する者もいたが、見世物でも見るように眺めている者が多く、中にはカメラを向ける不謹慎者もいるが、誰も咎め立てする者はなかった。撮影禁止になっているわけではないらしい。
ほぼ一日中かかって、那美は山を歩き回ることになり、夕暮れに全ての社を回り終えた時には、足が棒のようになって、くたくたに疲れていた。全裸で、人目を気にしながら歩いたので、余計に疲れてしまったようだ。
風呂に入り、夕食をとって、寝床に横たわると、那美はあっと言う間に眠ってしまった。
第2日目 神楽
二日目、那美は境内の神楽殿に連れて来られた。神楽は神に奉納するために舞われるので、本殿に真向かう位置に建てられている。
橋掛りを渡って、正方形の本舞台に進む。
「おはようございます。」
笛や太鼓を奏でる神楽囃子の囃子方がすでに舞台の袖に並んでおり、一斉に挨拶をする。
「おはよう。」
美沙子が挨拶を返すが、囃子方の面々が見つめているのは、あくまで那美だ。那美は胸と下腹部を隠したまま、体を硬くして、ぎごちない会釈を送る。十人程いる囃子方は全員が男で、那美は相変わらず素っ裸のままなのだ。
彼らが見守る中、那美は美沙子とともに舞台に上がった。美沙子はトレーニングウエアを着ている。全裸の那美は恥ずかしそうにうつむき、手に胸をあてたり、お尻を隠したり、下腹部に置いたりしている。境内には他に人影がないのが、せめてもの救いだ。
「今日中に、踊りの基本的な動きは、覚えてしまわないといけません。最初に、私が踊ってみますので、よくご覧になってください。」
そう言うと、美沙子は本舞台の真ん中、「正中」の位置に立つ。
ピーピー、ピーヒャララ
ドンドコドン、ドンドコドンドン
ドンドコドン、ドンドコドンドン
境内にひびく笛と太鼓。激しい太鼓の音に合わせて、美沙子が踊った。それは、激しく体を揺り動かす踊りで、舞という優雅なイメージからは程遠い。もっと荒々しく、古代から伝わるエネルギーを感じさせるもので、むしろビートの効いたロックかソウルで踊っている感じに近かった。
ドンドコドン、ドンドコドンドン
ドンドコドン、ドンドコドンドン
那美は美沙子の踊りに見入っていた。躍動感に溢れ、セクシーな見事な踊りであった。
「これが、この神社に伝わる踊りの中で最も重要な『岩戸踊り』の基本になる動きです。」
合図をして囃子方を止めた美沙子が、那美に向かって言う。
「美沙子さん、上手…。どうして、美沙子さんが巫女にならないの?」
那美は感じた疑問を素直に口にした。
「私は稗田家の者、猿女の巫女家をお助けするのが役割です。巫女にはなれませんわ。」
「サルメ…?」
「宇受賣神社の巫女の家柄、あなたのお母様の家、そしてあなたがお継ぎになるのが、猿女家ですわ。アメノウズメノミコトの直系の巫女なのです。」
美沙子はそう言うと、踊りの由来を話した。