「宇受賣神社の巫女」-2
第1日目 禊
那美と美沙子を乗せたベンツは、満天の星空の下、曲がりく
ねった山道を登って行く。
「もうすぐ、亜真の村に着きます。」
美沙子がそう言って間もなく、細い川を中心とした谷間の集落に出て来た。ここが、那美が巫女になる宇受賣神社がある亜真村である。田舎の農村風景そのままに、200戸程の民家が立っている。
車はゆっくりと村を抜けた。集落の外れ、小高い山の上に神社はあった。
「すごい、立派な神社。」
山深い村の神社とは思えない立派な社殿が、頂上付近に見えていた。山のふもとに大鳥居があり、車が通れる広さの参道が続いている。どうやら、この山全体が神社になっているらしい。
自動車で行ける道の終点に社務所が建っていた。時計を見ると、すでに日付が変わっている。那美は美沙子に案内されて社務所に入った。
「奥の部屋に寝床を敷いてあります。明日からは、巫女になる儀式が始まります。朝は早いので、今夜はゆっくりお休みください。」
美沙子がそう言って、部屋を出て行った。
(儀式って、どんなことをするんだろう?)
用意されていた和服の寝間着に着替え、ふとんにもぐりこむと、そんな疑問が頭をかすめた。少し不安になったが、ずっと車に乗っていて疲れたせいか、いつの間にか、那美はぐっすり眠っていた。
「さあ、お目覚めの時刻ですよ。」
美沙子の声で起こされた那美は、まだ少しボーッとした頭で周囲を見回した。広い畳敷きの和室は、見慣れた自分の部屋ではない。一瞬間を置いて、昨日自分の生活に大きな変化が起きたことを思い出した。
「おはようございます。」
美沙子があいさつするのに答えて、時計を見る。時刻は早朝、日が昇ってすぐに、美沙子は自分を起こしに来たようだ。
「最初にまず、禊をしていただきます。私について来てくださいませ。着物はそのままで結構でございます。」
禊とは、水垢離(みずごり)とも呼ばれ、神道や仏教で自分自身の身に穢れのある時や重大な神事などに従う前、又は最中に、自分自身の身を氷水、滝、川や海で洗い清めることである。
那美は美沙子に導かれるまま、社務所を出て、長い石段を下って行った。
石段を下り切った所に幅2メートル程の小川が流れており、河原には大勢の人が集まっていた。みんなが一斉に那美を見る。寝間着のままでいることが恥ずかしくて、那美は会釈をしながら、思わず襟元と裾を整えた。
「村の衆が、祭礼に加わるために集まって来ております。」
言われて那美はあらためて一礼した。人々の間に小さなざわめきが起こり、一斉に頭を下げる。
「那美さまがとても美しくて、お優しい様子なので、皆、喜んでおりますわ。」
美沙子がにっこり笑って言う。那美がはにかんだような表情を浮かべ、その頬がピンクに染まった。
「さあ、着ている物を全て脱いで、川にお入りください。」
「えっ、ここで?!」
美沙子は事もなげに言うが、那美はおおいに狼狽えた。何しろ河原には数十人の人がいて、彼女を見ているのだ。しかも、見れば、そのほとんどが男性である。
「別に難しい作法はありませんよ。座って腰まで水の中に入ったら、体に水をかければいいのです。」
「でも…、みんな見てます…」
「それは、そうですよ。大昔から、巫女になる儀式の時の禊には、村の各家の代表に立ち会ってもらうことになっています。」
「でも…」
それでも、もじもじしている那美に、美沙子が厳しい口調で言った。
「これは神事なのですよ。いやらしいこと、恥ずかしがることではありません。」
「は…、はい!」
返事をしながら、那美は耳まで赤くなった。そう言われてしまうと、恥ずかしがっている自分の方が恥ずかしくなってきて、慌てて着物を脱いだ。寝間着の下はパンティをはいているだけなので、すぐに一糸まとわぬ姿になる。
「おう…」
「これは、美しい…」
村人たちの声が漏れた。
白い肌を桃色に染めて立っている那美は、片手で自分の体をきつく抱き締め、もう片方の手を下腹部にあてている。なよやかで美しい肩先や、腕に抱かれてかえって強調されている胸の谷間が、男心をくすぐる。くびれたウエスト、腰からヒップにかけての曲線やスラリと伸びた長い脚が美しい。まばゆいばかりの裸身を目にしっかり灼きつけようと、村人たちは食い入るように見つめていた。