堕天使と殺人鬼--第10話---4
男は急に、身体を反転させて黒板と向き合った。片手には白いチョークを握り、これは印象通りしっくり来る綺麗な細い字で、?二〇〇七年度プログラム第三十後号?と端の方に縦に書き記した。
晴弥はそこまで視力が悪いわけではなかったが、なんて書いてあるのか初めは読めなかった。思えばそれは、現実から目を反らしていたのか。読めないと言うよりは理解することを、何かが拒絶しているような感じだった。そう、あの男の、桃色のバッチを見付けてしまった時から――。
男がチョークを置いて、身体全体を動かして振り返る。唇の両端が僅かに上がっていた。先程までの不機嫌さはどこへやら、薄気味悪い微笑を浮かべているようだった。
そして、告げた。最も聞きたくなかった、その真実を。
「えーっと、おはよう。いきなりで悪いんだけど……今日みんなに来て貰ったのは他でもありません。ちょっと今日は、このクラスで殺し合いをして貰います。」
未だに誰も、何も言わなかった。ただ、都月アキラが近くで、「やっぱり……」と、ほとんど吐息に近い掠れた声で呟くのが、耳に入った。
何秒くらい経ったのだろう。男の言葉を理解した誰かがひゅっと、息を吸い込んだ。
【残り:三十七名】