俺と俺様な彼女 〜12〜-3
「座りましょう。」
「はぁ。」
「・・・」
「・・・」
「何かしゃべりなさいよ。」
「・・・来年は先輩、受験ですね。」
「そうね。」
「なんか進路とか決めてるんですか?」
「まだ何も。」
「そうですか。」
「数馬は将来の夢とかあるの?」
「特には。平和な人生を送りたいです。波乱万丈じゃなくて。」
「平凡ね。」
「はい。」
「でも数馬らしいわ。」
「そうですか?」
「そうよ。数馬らしい。」
「・・・」
「来年になったら今までみたいに遊べなくなるわね。」
「そうですね。それにその次は俺だからさらにもう一年ですね。」
「あんたの場合、浪人の可能性もあるからもっと長くなるかもね。」
「ぐはぁ。」
確かにそうかもしれないけど、言わなくていいじゃん。そんなこと言って誰が得するんだよ。
「ふふ、心配しなくても待つわよ、私は。」
「ありがとうございます。とても倒置形で付き合い始めた人と同じ言葉とは思えません。」
「そういえばそんな理由で付き合ったのよね。」
「俺は一生忘れませんよ。」
「でもそれだけが理由じゃないのよ。」
「え?」
「そもそもあれが数馬との初対面じゃないのよね。」
「どういうことですか?」
「・・・数馬の家で飼ってる猫、元捨て猫よね?」
「そうですよ。・・・あれ、俺先輩にそのこと言いましたっけ?」
「確か、私が一年生の夏だから一年半ぐらい前かしら?」
「そうです。何で?」
「あの日ね、帰ったら家に誰も居なくて暇だったから本屋に行こうとしたのよ。」
「話が見えないんですが。」
「黙って聞きなさい。それでね、近道しようと思って公園を抜けようとしたのよ。」
「・・・」
「そしたら同い年ぐらいの男の子が隅でダンボール箱を見つめてるのよ。最初は変質者の類だと思ったわ。」
「ひでぇ。それ俺ですよ。」
「その時はそんなこと知らないわよ。それで無視して通り過ぎようとしたら、猫の声が聞こえてね。ああ、あのダンボールの中には捨て猫がいてそれを見てるんだと気づいたのよ。」
「はい。」
「それでどうするか気になって見てたら、その男の子、首を振って離れたのよ。」
「そうでしたね。」
「私は『ああ、まぁ、そんなものよね。』と思って、そのダンボールに近寄ろうとしたのよ。いとこが動物を飼いたいって言ってたから。」
「・・・」
「そしたら、急に歩いてた男の子が立ち止まって叫ぶのよ。確か『だぁぁー、ちくしょう。』って。」
「よく覚えてますね。その通りです。」
まさか先輩に見られてたとはなぁ。世間って狭いな。
「私びっくりして、呆然としてたらその男の子が戻ってきて、ダンボール抱えて行ってしまったのよ。」
「そうですね。あの後大変だったんですよ、親父説得するの。」
「その時のね、男の子の顔がすごく印象的だったの。仕方ないっていう気持ちと優しさとが混ざったような顔がね。」
「はぁ。」
「それが数馬と初めて会った日。」
「・・・」
「あれ以来、何度か公園に行ったんだけど会えなくてね。次の年に学校の廊下で数馬を見かけたときはびっくりしたわ。」
「そうだったんですか。」
「それでしばらくしたら、下駄箱にラブレターが入ってて、行ったら数馬がいたというわけよ。」
「なるほどね。」