刃に心《第16話・肝試し度胸試し》-4
「……行こう…」
「えっ!?」
「……私とじゃ嫌…?」
「嫌ってわけじゃなくて…」
言葉を濁しながらベンチでうなされている楓を見た。
「楓さんなら私が看ていますのでご心配なさらずに♪」
そんな疾風を察してか、朧が言った。
疾風は少し考えた後…
「…判りました」
若干の不安はあるものの、刃梛枷が行きたがっているようなので、楓は朧に任せる事にした。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃいませ〜♪」
浴衣の袖をソッと押さえながら朧が優雅に手を振る。口許には穏やかな…
「うふふふ…♪」
………穏やかだが、黒いオーラを包んだ笑みを浮かべている。
疾風は背筋に冷たいものが流れるのを感じた。本能的にアレに関わってはならないと警告音が頭の中に響く。
歩く速度を上げる。
二人は足早に暗闇の中へと進んでいった。
それと、ほぼ同時に武慶と希早紀が疾風達が行ったのと反対───左の道から帰ってきた。
「お帰りなさい♪どうでしたか?」
「さいこーでした♪しぃ君なんか、恐怖のあまり硬直しちゃってました♪アレ?かえちゃん、どーしたんですか?」
希早紀は武慶から離れるとベンチに横たわる楓の元へと向かった。
武慶はへなへなと、楓が横たわっているのとは別のベンチに座る。
「いい思いができたみたいですねぇ♪」
「…む、胸が…き…さき…結構…ある…」
まるで、うわ言のようにぼんやりと呟く。
顔は真っ赤で、熱に浮かされているようだ。
そう…恋の病からくる熱によって…♪
「あんまり、上手くないですよ♪」
そ、そうですか…結構、自信あったのに…
「「ただいまです」」
「お帰りなさい♪楽しめました?」
朧が双子とその間でブスッとした表情の千代子に問い掛けた。
「疾風がいねえのに、楽しめるかッ!!」
「う、う〜ん…」
千代子の怒鳴り声によって、楓が苦しげに身体を起こした。
「アレ…疾風は……」
「ああ、それなら…」
かくかくしかじか。
「「何だとぉおお!!!!!!!!」」
状況を理解した楓と千代子が叫ぶ。
「「それより驚きなのは…」」
「驚きなのは?」
「「今時、かくかくしかじかで話を省略する事だね」」
「あ、私もそう思った!」
「違う!論点はそこじゃない!」
「ふふ♪で、皆さん…」
非常に嫌らしい笑みを作ると朧は皆の方を向いた。
「尾行…しません?」