刃に心《第15話・奉り祭り》-1
「は〜い。みんな貰ったわよね〜♪」
君塚教師が言う。
疾風は眠そうな顔で通知表という最終宣告文を読んだ。
多少の上下はあるものの、足して割れば見事なまでに平均値を叩き出している。
「狙ってるわけじゃないんだけどな…」
体育を除き、疾風は真剣に全力を持って学業に励んでいたはずだった。
だが、その結果は諮らずともいつも平均値。
「まあ、いっか…」
過ぎたことは仕方がない。取り戻せないから先を見て生きよう。
そう思って、ぼんやりとしながらも君塚教師の話に耳を傾けることにした。
「え〜、良かった人も悪かった人もいろいろいると思うけど、これから夏休みに入ります。それにあたって一言。怪我、事故が無いようにね」
テンプレートな忠告。
生徒達は夏休みの計画についてひそひそと相談している。
「怪我、事故をすると先生に連絡が入ります。そうすると先生はいろいろと対処に追われます。
先生は今年の夏は…いや…今年の夏こそはいい男を掴まえて、ラブい展開を迎えたいと思いますので、ぜぇぇええっっっっったいに!怪我事故をしないように!」
目が殺気を帯びる。
それまでおしゃべりに花を咲かせていた生徒達は思わず姿勢を正し、黙り込んだ。
「若い君達に判る?スーパーとかで籠に乱暴に入れられて安売りにされてる商品を見た時のあのやるせない気持ちがッ!
ついつい頑張れと思う気持ちがッ!
そして、自分頑張れと思う気持ちがッ!
君達に判るというの!?
否!絶対に判らない!
何故なら若いから!!」
生徒達の間に『判らないし、判りたくも無い…』という感想が浮かぶ。
「とにかく!この夏休みは先生の所に連絡を入れないように!
入れた人は次の古典の成績が悲惨な結果になると思うので覚悟しておいてね。以上!!」
《第15話・奉り祭り》
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやぁ〜、君ちゃん先生、目がマジだったね」
「あの人もまだ若いと思うんだがな…」
「噂だと、学生時代の親友達のほとんどがゴールしちゃったから、焦ってるらしいよ」
帰り道でそんな会話が弾む。
「そんなことより!」
希早紀が君塚教師の結婚談義を「そんなこと」と──本人に悪気はないのだが──簡単に一蹴。