刃に心《第15話・奉り祭り》-6
「でもよ…同じのを…」
「……アレが欲しい…」
「そうか…すまねぇな」
店主はキーホルダーを拾うと刃梛枷に手渡す。
刃梛枷は無言でそれを受け取った。
「嬢ちゃん、かなりの腕前だな。ウチのお嬢といい勝負だ」
「お嬢?」
「ああ、ウチの組長の孫娘でな…ちょうどアンタ達と同じ位の歳で…」
その時、辺りが騒がしくなった。
「ほら、アレがウチのお嬢だ」
くいっと顎で指し示す。
人だかりの中で二人の男が今にも殴り合いを始めそうだ。
「待ちな!」
そこに茶色の長髪を颯爽と夜風にはためかせて一人の女が現れた。
工具を二つ、十字に重ねた紋の付いたハッピを着込みんだ千代子だった。
「何だ!部外者は入ってくんな!」
男の一人が叫ぶ。
だが、千代子は平然と腕組みをして言った。
「生憎、此所はアタシんとこ…正確にはアタシの爺ちゃんのシマなんでね。部外者じゃねぇんだよ。それでもやるならアタシが代わりにやってやるよ!」
眼光鋭く、ニヤリと笑う。
「上等だあ!」
頭に血が上った一人が迫る。
千代子はゆっくりと腕組みを解いた。
銀の凶器が光る。
「へんッ!そりゃあ、こっちの台詞だ」
ひらりと男の拳を躱すと脇腹に重い一撃が入る。
男がよろけた。
その隙に顔面にさらに一発、メリケンの痕がくっきりと刻まれる。
「はい、一人目。アンタはどうする?暴れるんなら、アタシが相手になるし、手打ちにすんなら見逃すけど?」
無事な方の男は脂汗を額から垂らし、転びそうになりながら逃げていった。
「お嬢!無事ですかい?」
「当たり前だよ」
駆け付けた男に千代子が笑って応える。
「あの程度の奴なら軽……く…」
ふと辺りを見回した千代子と疾風の目が合う。
疾風は小さく手を振った。
「は、は、疾風!?」
先程までとは打って変わって、見事な慌てよう。
「どうも」
「な、な、何で此所に!?」
「シイタケとかと遊びに来たんですよ。先輩は?」
「あ、アタシはウチが毎年此所をしきってるから、その手伝いを…」
見事な暴れっぷりを見られた為か、少し気まずそうにもじもじと語尾を濁す。
「用事ってこのことだったんですね」
「う、うん…でも、その疾風が来るなんて知らなくて…何か騙したみたいで…その…」
「別に気にしてませんよ」
にっこりと笑う疾風。
千代子の胸がキュンと軋む。