刃に心《第15話・奉り祭り》-3
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そして、当日。
祭りの会場となる神社とその近くの公園は人で溢れている。
そして、人々の楽しそうな声に混じり、何処からともなく漂ってくる──ソースだろうか──香ばしい匂いが食欲中枢と胃をガンガンと刺激する。
「多いな」
「此所以外でも祭りをやってるらしいから、ハシゴしてる奴もいるんだろう」
会場の入口付近で男共が佇んでいる。
彼方と武慶は着流し。
残った、疾風と間宮兄弟は私服である。
「お待たせぇ〜♪」
そこに女性陣が合流。
こちらは皆一様に、浴衣を着込んでいた。
「おぉ!月路先輩!何と麗しい!」
「ふふ♪ありがとうございますね♪」
所々で金魚が泳いでいる浴衣の袖で口許を隠し、上品に微笑む。
「遅くなってごめんね。あっ、しぃ君、着流しなんだぁ♪かっこいい♪」
希早紀はデカデカと向日葵の咲いたものを着ていた。
絵柄同様の大輪の笑顔に武慶の顔が赤く色付く。
「兄貴、どうよ♪」
赤い南国の花が咲き乱れる浴衣を着た霞が楓の背中を押す。
楓は対照的に淡い水色の涼しげな浴衣だった。
「は、疾風…」
恥ずかしそうに頬を染める仕草に疾風は思わず、ドキッとした。
「あ、ああ…似合ってるよ」
辛うじてそう感想を述べた。
だが、楓は少し不満そうな表情をする。
「可愛いとか言ったらどう?仮にも許婚なんだから」
戸惑う疾風に霞がこっそりと耳打ち。
可愛いと言う台詞にまた少しドキッとしたが、此所はそう言った方が良いみたいだと理解する。
「その…可愛いよ」
すると、楓の顔が嬉しそうに綻ぶ。
「本当か?」
「あ、ああ」
目を合わせると何となく気恥ずかしい気持ちになる。
そんな時、疾風の服の裾がくいくいと引っ張られた。
見れば、刃梛枷が立っている。
黒字の浴衣にうっすらとそよぐ風鈴。
「……どう…?」
刃梛枷は静かに問い掛けた。