たったひとこと【第4話お泊まりミッドナイト】-9
「ははは・・・あぁ、そういえばさっき懐かしい夢、見たんだ」
「懐かしい夢?」
「ああ。オレらがまだ子供で、ツチノコ探しに山に入ったことあったろ。その時詩乃1人だけ森の奥に行って」
「そうだっけ」
「夜になっても出てこなくてさ。救助隊まで出る騒ぎになって」
「あっ、それなら覚えてる。あとでこっぴどく叱られたから」
「近所の人も総出で捜したのに見付からなくて。その時、詩乃の声が聞こえたんだ。成之、助けて!って」
「・・・」
「周りは騒がしいのに、その声だけはやけにはっきり聞こえてさ。声をたよりに走ったら、いたんだ、詩乃が」
大きな木、泣いてる少女。
「・・・思い出した。大きな木の幹のくぼみで座ってた。泣き疲れてお腹もペコペコで。成之が手を差し出してこう言うの、オレが来たからもう大丈夫!って」
すると成之は難しい顔になり
「そう、そこまでは覚えてるんだけどその後に何かあったような・・・」
その時、2人の間を這い回る生き物が1匹。黒光りした体が、詩乃の胸の辺りをよじ登っている。
「キャ―――!!!」
手足を振り回してゴキブリから逃れようとする詩乃。
「おいっ!暴れたら・・・」
遅かった。バランスを崩した荷物は容赦なく降り注ぐ。
「・・・いたた」
「くっ・・・」
「・・・成之!?」
目の前にあったのは成之の顔だった。しかし苦痛に歪んでいる。
「・・・だい、じょうぶだ」
そういう成之の背中には角材らしきものが乗っている。
「アタシをかばって・・・?」
「・・・たまたまいた所に落ちただけだ。屁でもないって、こんなの」
それが強がりであることは表情を見れば分かる。
アタシはまた成之に守られてしまった
「・・・成之ぃ」
つうっと頬を伝う涙。
嫌われるのが怖くて、成之に好きになって欲しくて、強がってきた詩乃が流す本当の気持ち。
「泣くなよ・・・そうだ・・・助けに来たあの時も、詩乃、泣いてたな」
「忘れないよぉ・・・泣いてるアタシに泣きやむおまじないをしてくれた。あの時から、アタシは、成之のこと・・・」
自然に近づく顔と顔。お互いの息遣いを感じる。すっと目を閉じる詩乃。
カチャ
「・・・」
「・・・」
「・・・え」
目が合うマリ姉と2人。
時が止まる。