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「恋文」
【悲恋 恋愛小説】

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「恋文」-1

「好き。」

それは、暑い日でした。近くの海水浴場が今日オープンしたとラジオで聞きました。
私は彼と彼の車に乗っていました。暑い夜でした。
「好き。」
何度も何度も口にした言葉を、私は懲りずに。
「ありがとう。」
彼もまた、何度も何度も口にした言葉を、飽きずに。でも、少し効果があったようです。
「……本当に?」
「…うん。」
長い長い沈黙でした。それから約一週間後、私たちは付き合い始めました。長引いた梅雨が漸く明けたときでした。

今思えば、色んな所へ連れて行ってくれました。時にはひやっとする事もあったけれど、私が行きたいと言った所は、必ず連れて行ってくれました。
幸せでした。今も、こうやって思い出すだけで幸せになれるのですから。

時は経ちました。もう、春ですね。
一緒に大学のキャンパスで待ち合わせしようね、卒業旅行は温泉がいいな、あ、ラブホに泊まるとかなしだからね―
いっぱい約束しすぎて、私は多分全部覚えてないんです。ごめんなさい。こう謝っても、あなたは笑って
「怒ってないよ。」
そう言って頭を撫でるんですよね。

会う日は、午前中なんて勿論無理でした。メールや電話をしなければまるで約束自体がなかったかのようでした。あなたは決まって二時に、私からの電話に低い声で
「今どこ?」
そう言って風呂に入っていました。
私は、好きだから、待ちました。時には何時間も。忘れられていた事も何度かありました。怒った事も何度か。勿論大抵は本人には内緒です。

私ばかり怒っててごめんなさい。
こう言うと、あなたは決まって
「俺こそごめん。」
そう言って黙りました。あなたの影響で好きになった歌手のアルバムが流れていました。

あなたはよく、私が何も言わずに泣くのをそっと抱き締め、そうしてよく一緒にいましたよね。
私が無言だから、あなたにどんな気苦労を掛けた事でしょう。ごめんなさい。唯々悲しかったのです。泣きたかったのです。理由を言わなかったのは、その理由があなただったから、言えなかったのです。今やっと言えますね。

二人で手を繋いで歩いた事、覚えていますか?冷やかされて落ち込んでいるように見えた時、私は吹き出しそうでした。可愛くて、愛しくて、思わず手をぎゅっと、握り返しました。

あなたが、他の何人かの男性と同じように携帯が嫌いだと言ってくれた日の事、覚えていますか?
私は唯々聞くしかできなかったです。あなたが、自分からメールしたり電話したり誘ったりする事も恐らくないだろうと、諭すように私に教えてくれたので、私はそうかと呟いて。

私があなたのいない所でたくさん泣いてしまった事、あなたは知っていますか?
あなたの友人の前で。
私の友人の前で。
彼等に言われたのです。ちゃんと、言いたい事を言え、と。彼もあなたを嫌いじゃないはずだと。顔の見えないメル友には、別れろと何度も。

言おう、今日こそ言おう、そう思う度に不都合が重なって、それはテストだったり、バイトだったり、家の用事だったり、友人付き合いだったり、本当にいろいろで。もう最後には可笑しくなってきて、言いたい事は何だったのかなという感じになって、忘れてしまいました。

しかしやはり状況は変わらずに、のんびりと日々は過ぎて行きました。

私は、あなたに一度も言わなかった―正しくは言えなかった事があります。

本当はね、こんな事言うつもりなかったんだ。あなたの笑顔は忘れられない。ただね、寂しかったよ。寂しかったんだ。

読んでくれてありがとう。またね。


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