光の風 〈覚醒篇〉-1
この世界、何も変わらないように見える嘘の世界。崩れかけたものが救われ再び同じ姿を取り戻し、また変わらない生活を始める。
空の色も大地駆ける風も変わらない。ただそれらを治める国王だけが変わっているだけ。
「これでいい、進めてくれ。」
会議で出された案に許可を出すとカルサは立ち上がった。会議がおわってもまだ話があるのだろう、次々と人が詰めかけてくる。一つ一つに答えながら足を進め、私室の方に向かっていく。最後の人が掃けたのは会議室から出て私室に入るほんの手前だった。
ドアノブに手をかけ扉を開いて中に入る。後ろ手に閉めた扉、少し肩苦しい上着を脱ぎ捨てソファに腰を下ろした。
深い深いため息が静かな部屋に響き渡る。そのまま体を倒し、手で目を覆って再びため息を吐いた。
コンコン
「陛下?紅奈です。」
ノックと共に境界線の向こう側から声が聞こえた。大丈夫、彼女はこちら側だ。そう頭の端で思った後、かすれた声で入れと声をとばした。
その声を合図にゆっくりと部屋の中に入ってきた。相変わらず手で目を覆ったままソファに横になっているカルサを見て、不安がよぎる。
「サルス…顔色悪いで?ちょっとは休んだ方がええんとちゃうか?」
「今…休んでいる。」
「あんた、公務とカルサの番としとって寝てへんのやろ。」
紅奈の声にサルスは何の反応も示さなかった。黙って目を覆ったまま体をソファに預けている。
目に見えて分かる疲労の色、サルスは私室の外でいっさいの疲れを見せない代わりに部屋の中ではスイッチが切れたように動かなくなるのだ。カルサの代わりとなってから切れる事無く続く激務、どこから湧いてくるのか、あれからサルスはひたすら走り続けている。
見るに堪えない姿だった。
コンコン
「カルサ、いる?」
ノックと同時に扉を開け、可愛らしい声の主が境界線の中に軽々と入ってきた。その手にはポットとボウル、そしてタオルが準備されている。
「ごめんなさい、お話し中だった?。」
「かまへん、カルサの様子見にきただけや。」
「ありがとう。」
傍に居る紅奈を前にして彼女は軽く挨拶をした。明るい笑顔が暗い部屋の空気を変えていく。
当たり前のようにソファの横に座り、彼の目を覆っていた手をそっとはずした。光を取り戻していく彼の視界に入ったのは、やさしく笑う女性。
「リュナ…。」
「カルサ、大丈夫?お湯持ってきたから、目を温めましょ。」
リュナの言葉に瞳を閉じる事で答えた。リュナはほほ笑みボウルにお湯を注ぎ始める。そんな様子を紅奈はじっと見ていた。