光の風 〈覚醒篇〉-3
「君を愛してしまいそうだ…。」
サルスの言葉にレプリカの時間は止まった。聞き間違いだろうか、今彼は自分が何を言ったのか分かっているのだろうか?
「すまない…少し…眠ることにする…。」
そう言った数秒後には規則正しい寝息が聞こえてきた。ゆっくりとタオルを剥がしてみると、サルスは完璧に眠っていた。再び暖かいお湯に浸してもう一度目に乗せてやる。
部屋の奥から毛布を運び、そっと体にかけた。深い眠りは彼を捕えて放さない。
「私の真意なんて簡単なものよ?」
サルスの頭を撫でながらレプリカは話しかけた。もちろんサルスは深い眠りの中、彼女に答えるわけもない。
「この場を利用しているだけ。」
言葉とは裏腹にどこまでも穏やかな表情だった。
カルサとリュナが封印されてからどれだけの月日が流れたのだろう。カルサはサルスが、リュナはレプリカが演じることで国は均衡を保っていた。
サルス以外は彼女の正体を知らない。
紅奈も貴未も聖も、サルスやレプリカの口からはこの事実を告げられていない。
「やっぱおかしいと思うんや。何となく違和感あんねん、あのリュナ。」
未だカルサが封印されている祭壇の間で紅奈は呟いた。その声にラファルから聖水を受け取った貴未が応える。
「ん〜?何がぁ。」
「違和感あらへんか?うちらが気付いて、何でリュナだけサルスやいう事に気付かへんねん。」
聖水を結界ギリギリの所にまいて境目を清める。撒き終わったビンをラファルに渡し、ありがとうとお礼を言った。
「オレなら気付けないかもな。」
「何で?」
「聖も言ってたろ?今のサルスは一昔前のカルサみたいだって。」
自分の全てを国の統制に捧げて、私室に居る時はスイッチが切れたみたいに動かなくなる。ただひたすら睡眠を求めているだけの日々、まさに今のサルスの状態だった。
「オレ、たまにサルスがカルサに見えて仕方ないことがある。リュナはスイッチの切れたサルスしか見ない訳だろ?」
普段とは違うカルサ、会話も少なく違う場所を見つける材料が少なすぎる。そんな中で彼女は解るのだろうか?それとも。
「リュナは嵐の時、封印される前後の記憶を失っている。強制的にかけられた封印の魔法のせいなのか、精神的なショックからか。」
「…目の前でカルサの胸に剣刺されたんやったな…。」
それを思い出さないように自分で自分をセーブしているのだろうか。