光の風 〈覚醒篇〉-2
「ほな、うち行くわ。番はうちが代わるさかい、ゆっくり休んどって。」
「番?」
紅奈の声に反応したのはリュナの方だった。きょとんとした顔で紅奈を見つめている。
「ラファルの相手の事や。ほなな。」
そう言うと紅奈はひらひら手を振りながら部屋を後にした。静かに閉まった扉の音を聞いて、再びリュナはボウルにお湯を注ぐ。
「ちょっと熱いかな。」
指で温度を確かめて、少し冷ますことにした。そんな様子を音で感じながらサルスは口を開く。
「見事な芝居だな、レプリカ。紅奈はお前をリュナと思ってるだろう。」
「国民を騙す貴方ほどじゃないわ?サルス。」
レプリカと呼ばれたリュナそっくりな女性は笑いながらサルスの言葉に答えた。タオルを取り少し熱が取れたお湯の中に浸してしぼる。
自分の手の水気を別のタオルで取り、サルスの頬に触れる。
「こんなに顔色が悪い…目の上に暖かいタオルを乗せるわ。目を閉じて。」
サルスの目蓋を手で下ろしてやると、レプリカはそっとぬくもりのあるタオルをかぶせた。タオルの暖かさが顔に伝わってくる。それはサルスに対してのレプリカの優しさでもあった。
「誰も見ていない所ではフリをしなくていいんだぞ。君は常にリュナでいる必要はない。」
疲れた声。その感情をどうとらえたらいいのだろう。レプリカはサルスの頬にキスをした。突然の出来事に思わずサルスの体は反応する。
それでも優しさを含んだ暖かいタオルが彼の視界を遮っていた。
「誰かの前だけだと不自然になってしまうわ。」
「…君の真意が分からない。」
「なぜ?」
リュナであり続ける必要が確かにあるのかもしれない。しかし時折見せる今のような振る舞いにサルスは困惑していた。別にサルスを愛する必要はないのだ。
私室でスイッチが切れた彼はカルサではない。カルサになる事で全てを使い果たしたサルスがそこにいるのだ。
「君がリュナじゃないのはオレには分かる。姿はリュナでも、中身は君だ。」
力なくソファから投げ出された彼の手をレプリカは両手で握りしめ、温めるようにした。彼女が取る行動に対して何の抗議もしない。されるがままになるほどサルスは疲れ、動けずにいた。
「君がどういうつもりで…オレに協力してくれているのか知らないが…ずっとこの日々が続くと止まらなくなる。」
「…なにが?」
暖かいタオルと、レプリカの手の温もりが安らぎを生み、心地よい眠気にサルスは包まれていた。働かない頭と回らない口で彼女の問いに答える。