光の風 〈覚醒篇〉-15
「闇が光を覆う。でもかすかな光が生きている。私にはここまでしか見えない。」
それがどういう意味を為すのかサルスには分からなかった。しかし、言葉そのものとナルの表情から難しい方向へ道は続いていることが感じられる。
ナルは水晶玉を消すと、まだ眠りから覚めない二人の顔を見つめた。
「呪縛の効力は消えている。心配はないと思うわ、後は任せました。」
しわの深い手でリュナの頬を撫で、サルスに一言残してナルは部屋を後にした。高貴な布の擦れる音が静かな部屋に響き消えていく。
一人自室に向かうナルの表情はどこか思い詰めたようにも見えた。人気のない城内がさらに気持ちを沈ませたのかもしれない。後ろ手に閉めた自室の扉の音がやけに響いたのは気のせいか。部屋の中央まで進んだ時に上空から声がかかった。その声に聞き覚えがある、瑛琳だ。
「見えない、とはどういう意味を示していますか?」
「聞いていたの、瑛琳。」
「はい。見えないという事に、いくつか原因が伺えます…。」
あくまで姿は現さずに瑛琳はナルに答えを求めた。ナルは両手をお腹の前で祈るように組み、どこかにいる瑛琳を想定して空間と会話をする。
「相手の力が私より強い、相手が私が見れる限界を超えた存在である、もしくは私が望んでいない…。」
どれも有り得る事なのだとナルは言葉を続けた。それが考えられる原因であり、予想もしなかった出来事の未来を見るのが少し恐くなっている。自分が心のどこかで望んでいない事が反映されているのかもしれないとナルは情けなさそうに呟いた。
「…人間ですから。」
「そうね。でも可能性として、あと1つあげられるわ。」
「なんでしょう?」
「私の命が尽きること。」
自分の命が尽きる、自分の命に関わる事は占えないというのが占者が交わす契約の1つだった。その可能性さえ無ではない。
「何が起こるか分からないわ…運命の歯車はいつ狂うか分からない。歯車自身に何か影響が出ているのかもしれないわね。」
「歯車自身?」
瑛琳の問いかけにも感じられる声に、ナルは静かに微笑むだけだった。空を仰ぎ一言呟く、それはこれからの事を暗示させるかのように深く瑛琳の心に刻み込まれた。
「私は知りすぎたのかもしれないわね…。」
…ドクン…ドクン…
小さな鼓動が全身に響き渡る。その振動は光への道しるべにも感じられた。
あと少しだ、あと少しであの光に届く。
「カルサ?」
目に映るものは見慣れた天井、ちゃんと自分の目で見ているのにその感覚がまだ戻ってこない。
「カルサ?」
声をかけられるたびに戻ってくる感覚、彼は目覚めた。