光の風 〈覚醒篇〉-13
「ご案内致します、こちらへ。」
「あ、でも…。」
まだ目覚めない二人が気になり日向は思わず躊躇した。しかし、周りも少しずつ席を立つ雰囲気を出し始めている。
「傍にいてやりたいだろうが、皆でここに居ても仕方がないんだ。後は任せてほしい。」
サルスの言葉に皆は頷き、退席し始めた。貴未に背中を押されながら流れにのまれるようにして日向は部屋から出てしまった。部屋に残されたのはサルスとナルだけ、静まり返った部屋の扉が閉じて、賑やかさは部屋の外に消えていく。
各自バラバラと自分の持ち場に向かい足を進める。
「よう、日向。どうせやる事ないだろう?この城を案内してやるよ!いいだろ、セーラ?」
「はい。日向様、せっかくですからどうぞ。お部屋は後にでも私に声をかけてくださいませ。」
セーラの軽いお辞儀に反射的にお辞儀を返し、貴未に腕をひっぱられながら日向は城を廻り始める形になった。
こけそうになりながらも態勢を持ちなおし、前を歩き続ける貴未に勇気を出して話かける。
「ちょっと…待って、ねぇ!えっと…。」
日向の声に反応し、歩くペースを緩めて止まり振り返った。いきなり目が合ったことに驚き、反射的に日向の動きが固まる。
「貴未だ。た、か、み。オレも人の顔と名前を覚えるの苦手でさ。さすがにもう覚えきってるから何でも聞いてくれよな!」
親しみやすい雰囲気に日向は自然と笑顔になり、ありがとうと頷いた。緊張が少し和らぎ、今持っている疑問を貴未にぶつけてみる。
「ねぇ、今の女の人いつのまに来たの?」
「セーラか?皆で部屋に居る時に髪の短い青い目の女性がいただろ?」
少し前の状況を頭の中で描いてみると、確かにあの場に該当する人物がいた。金色の綺麗な髪を短くきり、青い瞳が印象的な女性。祭壇の前で急に煙を身にまとい姿を変えた女性。
「セーラはその子の仮の姿だ、城に居る時は多分ずっとあの姿じゃないか?」
「なんで?」
「元々リュナを影から見守る為にこの国に来たから、その名残だろ。潜入して女官としてリュナを補佐していたみたいだ。」
つまりは彼女は常に風神リュナを守る用心棒みたいなものだと日向は頭の中で整理をした。最初にリュナの姿をしていたのは、彼女の立場を危うくさせないために。リュナの場所を守り続け、いつ帰ってきてもいいようにリュナを演じていたのだろうと、貴未は続けた。
「しかし、お前凄いよな!二人の封印を解いちゃうなんてさ!強い力の持ち主なんだな!」
「…僕には実感があまりないんだけどね。」
貴未の感動を冷ますように、歯切れ悪くも日向は答えた。自分にだって分かってはいない、何故自分がいることによって固く施されていた封印が解けていくのか。自分の力の強さを分かっていないからではない、自分の力の影響が分からないのだ。
千羅は確かに皆に紹介をしてくれたが一度たりとも[火の神]として紹介してはいない。御剣というものがどのような存在なのか、特殊な存在であると同時に公になることを好まなかった。
とりあえず火の神である事は隠したまま日向は過ごすことにした。実際、火の神としての実感がない。