光の風 〈覚醒篇〉-12
「彼の名はウ゛ィアルアイ、御剣の中ではあまりにも有名な存在だ。巨大な力を持ち、その力で殺戮を続けた犯罪者。」
「御剣、ということ?」
「オレ達も詳しくは知らない。奴自身が機密事項みたいなもので、その存在を消されている。何らかの形で関わりはあるんじゃないか?」
予想はしていたが明らかにならない侵入者の正体に溜め息がこぼれる。あれほどの力、あれほどの驚異、御剣と言われた方が納得はできないが頷ける。
少しずつ明かされていく世界を支配していた御剣の内側、絶対的な強さの裏側。明かされていくと共に深まる謎が頭の中を晴らしてはくれない。
始めて聞かされる事実に困惑する気持ちをもちろん千羅も瑛琳も知っていた。
「御剣はオレ達自身も知らないことが多い。オレが話せられるのはここまでだな。」
「申し訳ないのだけれど…今回については私達にも分からないことが多すぎるの。」
千羅と瑛琳、二人の言葉に歯切れ悪くも周りは何も言うことができなかった。それぞれが頭の中で出るはずのない答えを見つけだしているようだった。千羅と瑛琳はお互いに顔を合わせ頷く。
「サルス、日向を頼む。」
「もう行くのか?」
「本来、私達はここにいるべきではないの。もう、顔を合わせる事も無いと思うわ。」
瑛琳の言葉に、彼女達の立場を思い出さずにはいられなかった。表だつ行動を避け、補佐としての任務を全うする影の御剣。
こんな事態にならなければ一生彼らの存在を知ることは無かっただろう。この場を離れようとする二人を止めるように貴未が最後の言葉を叫んだ。それはとても素朴で意味深な言葉。
「なぁ!オレ、リュナが来るまで御剣って孤独なんだと思ってた。御剣って仲間同士で集まるもんなのか?」
「それは普段の事を言っているのか?」
「ああ。こんな一国に何人も御剣は集まるのか?」
「御剣は孤独だ。自分以外の御剣を見付けられる事はそうあるものじゃない。」
御剣の総本山に来る以外は、そう続けようとしたが話が長くなるので千羅は話さなかった。彼らは御剣ではない一般の民。これ以上、情報を与えるのは危険だと感じたのだ。
「この事態は異例だ。」
その言葉を残し、二人は一瞬にして姿を消した。部屋の中は静けさを取り戻し、やがて紅奈の一言によって沈黙は解消される。
「分からんことだらけやな。何に関しても。ナル、静かやったけどどないしたん?」
「貴方達に任せていたのよ。もう年寄りが出る幕ではないの。」
ナルの言葉はその場を和ませ、かすかな笑いを生み出した。サルスが日向のもとへ近付き握手を求める。客間を用意させると伝え、目でレプリカに合図を送った時にはすっかりセーラの姿に変わっていた。