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■LOVE PHANTOM ■
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*** 君の青 最終回***-5

雫なしの仕事は、僕が考えていたよりもずっとつらかった。内容ではなく、彼女の声がそばで聞けないということが、少しづつ、僕を虚脱感の溝へ追い込んでいくのだった。それでも僕が、こうして約束の日まで大きな 失敗もなく何とかやってこれたのは、他でもない、細井さんの協力があってのことだった。
 彼がいつものように店へ寄り、いつも通り僕の入れたコーヒーを飲んではアドバイスをくれる。それが僕にとってどれだけ心の支えになったか、分からない。
 また、彼は夜になると差し入れもしてくれた。細井さんの手作りらしいが、これがまた意外と美味しかった。本当、頼りになるおむかいさんがいてくれてよかったと思う。クリスマスまでの二日間は、雫にとっても絶好の療養時間だったらしい。容態は目に見えるほど回復して、今朝なんか私服で辺りを歩きまわっていた。もちろん、店のほうに顔をだすことは許さなかったけれど、それだって大事をとってのことでその気になれば軽い仕事ならこなせていたはずだ。今夜は彼女にとっても、僕にとっても、特別な夜になることは間違いなかった。あの森からこの間のようなきらびやかな夜景を目にした時、僕は彼女に告白する。答えは明かりのない道のようにまだ見えないけれど、怖くはなかった。余裕とか投げやりとかではなく、自分でも驚くほど大きな勇気を手に入れたのだ。
 僕は今閉店したばかりの店の中にいる。誰もいない静けさの中で、一人たたずんでいた。時計を見上げると、針はちょうど、九時をさしている。時間だ。僕は居間につながっている戸を開け、雫を呼んだ。彼女が二階へ上がっていってから、かれこれ一時間が経つ。クリスマスだけにだいぶお洒落するらしい。普段はおてんばな雫も、そこらへんは女なのだ。
 僕がストーブを消していると、雫の元気な声が聞こえてきた。
 「どうした?」
 階段の下までいって、僕は答えた。
 「風邪、ふりかえすといけないからさ、わるいんだけとホッカイロ買ってきてくれない?」
 「ホッカイロ?薬局はもうしまったし・・ああ、スーパーはまだやってるかな」
 僕は頷くと、
 「じゃあ、買ってくるから。お前はここで待ってろ、な」
 と、言い残して、店のレジを開け、売上から千円札を取り出しポケットに突っ込むと、そとへ飛び出した。
 夜風は肌に痛いほど冷たく、吐き出す息も真っ白に変わった。今日は一日中忙しくて、テレビを一度も見なかったけれど、この分だと今夜あたり雪が降るのではないだろうか。もしもそうなったら、ホワイトクリスマスだ。そういえば、僕と雫の青い鳥探しもこのクリスマスがきっかけだった。実はあの青い鳥の本は、親父がクリスマスプレゼントにくれたものなのだ。けれどまだ子供だった僕は、本をもらってもあまり嬉しくなかった。どうせもらうなら、おもちゃのほうが嬉しかった。それで、とりあえずその本を読んでみると、驚くことに僕はその物語に没頭してしまったのだった。
ページを一枚めくるたびに、僕の中で新しい世界が生まれ、そしてまたページをめくった。
 青い鳥とは、まさに中断できない麻薬、際限のない幸せの物語だった。  結局、その本を一晩で読み終え、でも湧き上がる興奮は読んでいる最中よりももっと膨らんで、いても立ってもいられなくなった僕は、ついに雫にもこの興奮を伝えに走ったのだった。そう、ここから始まったのだ。僕らの青い鳥探しは、このクリスマスから。
森を駆け上る僕はチルチル、辺りをキョロキョロ見回しながら、その横を行く雫がミチル。青い鳥は・・・いつか僕らを結び付ける強い絆になっていた。
 「懐かしいな。まさかあの本が二人の運命をこんなに作るなんて・・・」
 僕は一度立ち止まり、空を仰いだ。
 「あいつの青い鳥がなんなのか分からないけれど、僕の青い鳥は・・・」


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