『暖かい雪-1-』-1
圧倒された。
…雪の多さに。
この雪で染められた白い道を一人歩きながら、研ぎ澄まされた静寂の中で、俺は息を吸い込んだ。
胸と鼻腔に、ひんやりとした空気が侵入してくる。
一人旅でこの新潟に来たのは、ほんの気晴らしのためだった。
冬にわざわざ東京から新潟に出るなんて馬鹿らしいとも思ったが、俺は雪を見たかった。
東京生まれ、東京育ち。
そんな俺に、雪を見る機会は少ない。
―小さな民宿に着いた。
夫婦で営んでいるというこの民宿が、俺の初めての一人旅のスタート地点になる。
27歳の今日まで、俺は一人旅というものをした事がなかった。
父親の仕事がたまたま社長だというだけで、俺は随分といろいろな犠牲を払ってきた。
でも、後悔はない。
自分は社長になる、そして今までの犠牲全てを取り戻す。
金と地位を手にして、誰が後悔するだろう。
会社に慣れ、父親の仕事を受け継ぐ準備ができて、俺はこうして正月の休みを利用し、今新潟にいるのだ。
ただ、民宿にしたのにはわけがあった。
のんびりとした自由気ままな一人旅の雰囲気を味わうため、あえてこの小さな民宿を選んだのだった。
「お夕飯は何時にされます?」
部屋の畳の匂いと外の雪の白さが、たまらなく心地いい。
「6時半でお願いします。」
「はい、じゃあその頃に。」
女将が部屋を出ていってから、次いで一人入って来た。
簡易な服装の若い女性で、化粧気の少ない顔の彼女は、俺に挨拶をするとにっこり笑ってこう言った。
「共同場所など、ご案内しますね。」
俺はただ単純に、何の下心もなくその娘を可愛いと思った。
頬に自然な赤みを帯びた白い肌には、都会にいるような娘のする、不自然な化粧では表現しきれない物があった。
高校生だろうか。
まだ幼さの残る彼女に連れられて、共同場所を案内された。