堕天使と殺人鬼--第8話---1
一発の銃声と共に、自分の目の前で、一人の少女の頭が吹っ飛んだ。大切な生徒が殺されたと言うのに、自分には、どうすることもできなかった。
オリジナル・バトル・ロワイアル
堕天使と殺人鬼 --第8話--
〜嵐の前触れ篇〜
「うわあああああぁぁっ!」
空気を割るような絶叫が辺りにこだまする。足元が覚束ない。身体の震えが収まらない。視点が定まらない。三年A組担任――遠山武紀(トウヤマタケノリ)はふらりと目眩を感じて、その場にがっくりと膝を着いた。目の前には、絶命して物へと成り下がってしまった彼の大切な生徒――保志優美(女子十五番)の死体が無惨にも転がっている。
遠山は這い付く張るようにして保志優美の死体の側に辿り着くと、その華奢な肩を数度、乱暴に揺すった。
「保志っ、……保志っ! 保志いいいいぃっ!」
何度呼び掛けて揺すったところで優美が起き上がるはずがなかった。冗談ではなく本当に彼女が死んでしまったことは、その半分も欠けた頭を見れば分かることだった。
遠山武紀は教師歴二十年のベテラン教師であった。月沢中学校でも上位に入る人気を誇る彼は、数々の経験を積んでいるためか、大場冬文(男子二番)や藤丸さやか(女子十四番)と言った不良っぽい生徒に対しての理解力も深く、また、平等に愛情を捧げることのできる教師であった。
そんな遠山にとって、この現実は、あまりにも辛過ぎることであった。あまりにも残酷であった。自分はなにをする暇もなく、一人の生徒を殺されてしまったのだから。
良い年した大の大人であるプライドを捨て優美の死体に縋って泣きじゃくる遠山を見下ろす、一人の青年がいた――保志優美を死に至ら占めた張本人である、三木原(ミキハラ)だ。
三木原はつい今しがた発砲したばかり拳銃を、そっと遠山の頭に向ける。カチャリ、と安全ロックを解除する音がして、遠山はびくりと肩を震わせた。
「遠山先生……」
呼ばれて遠山はゆっくりと涙塗れになった顔を、三木原に向ける。
「……私も殺すおつもりですか?」
「違います。いえ……」三木原は整った顔立ちを、真剣なものにして続けた。「できれば僕も、こんなことしたくはないのです。あなたは生徒たちの担任であって、生徒ではないのですから。ですが……」
三木原は首を左右に振った。
「あなたが、生徒たちがゲームに参加することを反対され続けるのであれば……やむを得なくなるのですよ。このゲームにおいて反対する者や反抗的な態度を取る者は、法律上罪に問われ、射殺許可も下りております。遠山先生、それはあなたもご存知でしょう?」
遠山は三木原の言葉を、黙って聞いていた。生徒が目の前で殺された今、遠山にとって自分の命などはもはやどうでも良い物となっていた。寧ろ、今すぐにでもこの場で殺してほしいとすら、遠山は思った。
三木原は、そんな遠山の心情を察しているようだった。それでも彼は、手元にある小銃を発砲しようとはしない。遠山は不思議に思ったが、彼にとってはそれも深く考える必要のない、どうでも良いことであった。