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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第7話---4

 しかし彼のすぐ隣にいた――黒い長髪の青年の、その背後にいるもう一人の体格の良い男性が遠山先生へ黒光りする何かを向けると、彼は勢いを無くして立ち尽くした。優美はそれで、冷静さを徐々に取り戻した――あれは――あれは、この国では軍人や警察くらいしか所持権利を持っていないはずの――拳銃ではないか? 大きくはないが、黒くて独特な形のそれは、まず間違いないだろう。よく見れば確かにそれを構えている男性は、軍服を纏っている。つまり――何度も打ち消した自分の予感は、見事的中していたと言うことか。
 優美は口をぽかんと開けて、大柄な男性の手に治まる小銃を眺めていた。
「……まさか、もうガスの効力が切れた生徒がいたとは……。鍵を閉め忘れたのはどいつだ? 中原。」
 そう静かに言ったのは、小銃を構えた?ナカハラ?と呼ばれる男性のすぐ前にいる、背が高くスマートな体格のスーツに身を纏った先程の青年だった。
「申し訳御座いません、三木原教官。私は存知ません。」
 どうやら青年の名前は?ミキハラ?と言うようだ。三木原は深く溜め息を付くと、首で背後の中原に合図を送る。
「では、すぐに調べさせろ。」
「は!」中原が敬礼をして優美の背後にいる加藤と言う名の男性へ視線を運んだ。
「加藤、直ちに調べろ!」
「は! 了解致しました!」
「それから、教室の鍵も閉めるんだ!」
「了解致しました! 失礼致します!」
 優美をここまで連れて来た加藤がそう言って、そのまま教室の外へ出て行くのを音で理解する。
「頼むよ、加藤。」
 三木原がそう言うとスーツには不似合いな笑顔で手を振って、彼を見送った。
「さて……」そこで三木原はわざとらしく膝を叩くと立ち上がり、優美に向かって足を踏み出し始めた。「えーっと、君は保志優美さん? だっけ?」
 三木原が優美の目前に膝を付くと、優美の顎に手を延ばしてしっかりと自分を見させるように上に押し上げて来る。そこで優美は初めて気付いたのだが、三木原は意外と少年らしい整った顔立ちをしていた。学ランを着せても、違和感はなさそうだった。
「ゲームに参加させてあげられなくて、残念だよ。」
 三木原はそう呟くと――彼も所持していたらしい、中原と同じような小銃を取り出して、優美のこめかみに先端を突き付けた。
「悪いけど……君にはここで死んで貰う。」
 優美は自分の周りで起こる出来事を客観的に眺めて、完全ではなかったがすでにかなりの冷静さを取り戻していた。しかし同時に諦めも付いていたので、自分に拳銃が突き付けられても驚きはしなかった――?あれ?が現実となった今はどうすることもできない。それにこうなってしまったのは、注意力にかけていた自分に原因があるのだ――いや、思えば、教室を抜け出したこと自体が失敗であった。あのまま教室に残ってさえいれば、少なくとも生き残る可能性はあったはずだ――優美は、自らの死を覚悟した。
「ま、待って下さい、三木原さん! 私の生徒に何をするんです!?」
「遠山先生……すみませんが原則として、教室を脱走した生徒をゲームに参加させることは出来ないのですよ。脱走した際に、何か嗅ぎ回っていたかも知れない可能性がありますしね。それにどこかの教室で何かを入手していたら大変です。スタート時に生徒全員が平等でなくてはならないこのゲームのルールを反することは、絶対に許されないのですよ。」
 死の覚悟を決め俯く優美を余所に、三木原はどこか遠くを見るような瞳をしてそう語った。
 そんな三木原に、遠山先生は尚も必死で訴えかけている。
「しかし、それは生徒に確認さえすれば、すぐに分かる話ではありませんか! それに……」
「遠山先生、もういいです。」
 何かをまだ言おうとしていた遠山先生の言葉を、優美は力ない声で遮った。
 遠山先生が驚いたように自分のことを見たのを確認すると、優美はゆっくりと首を左右に二度振って見せた。
 優美は何度も言うように、普段は大人しくてあまり目立たない生徒であり、その内に隠された才能もクラスメイトで認めてくれる者は一人もおらず、また気付いてもくれなかった。
 しかし、生徒からの信頼もそこそこ厚く理解力も深い遠山先生は、違った。唯一、優美を理解してくれる人だった。


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