投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

堕天使と殺人鬼の最初へ 堕天使と殺人鬼 18 堕天使と殺人鬼 20 堕天使と殺人鬼の最後へ

堕天使と殺人鬼--第7話---3

 一階だけ下りるとこれよりも下に続く階段はなかった。つまり、ここが最下階なのであろう。
 慎重に、辺りを見渡す――それで優美はずらりと並ぶ教室の中で、一部屋だけから明かりが漏れていることに気が付いた。ごくりと唾を飲み込み、足を止めた――あの教室に誰かがいるのは、まず間違いない。そしてそれが優美たちを拉致したであろう犯人だと言うこともまず、間違いないに違いなかった。
 そこへ行くべきか、それともさっさと出口を見付けるべきか暫く迷ったが、それでも優美はそこに向かって足を進めた。敵の行動を把握することによって、今後の自分の行動も取り易くなると思ったからだ。
 心臓が、激しく高鳴っている。近付くにつれて鼓動が増して行くのと同時に、優美はぼそぼそと何か音が響いていることに気付いた。よく耳を凝らすと、それは二種類の低く聞き取りづらい男性特有の声であることが分かったが、声が遠すぎて何を言っているのかは全く分からなかった。優美は更に高鳴る鼓動を押さえて、何を話しているのか確かめようと一歩一歩近付いて行く。
「一体、私の生徒たちをどうするおつもりなんです!?」
 ふいに二つの声の一つが声を張り上げた。優美はその声を聞いて思わず足を止めた。それは――言葉の意味も勿論重要なことなのだが、優美がこの時身体を硬直させるほど驚いた訳はその声が、自分、いや、クラスメイトたちにとってもすっかりと聞き慣れたものであったからだった――まさか……遠山先生?――そう、それは三年A組担任教師の、遠山武紀の物であった。
 優美は額に滲み汗を浮かばせて、一歩後退った。そうせずにできなかった。しかしここは精神力が水準以上優れている優美である。すぐに気を持ち直して、また、一歩一歩進んだ――もしかしたら、ここは追求せずに無視すべきなのかも知れなかった。幸いなことに向こうはこちらの存在に気付いている様子もなければ、気付きそうにもない。しかし優美は、声の主が本当に遠山先生であるかどうなのか、確かめずにいられなかったのだった。
 しかし、ここで優美にとって予想外な出来事が起こった――空気を割るような音が響いたと同時に、自分のふくらはぎのところに衝撃が走ったのだ。
 何が起こったのか理解できないまま、優美はバランス感覚を失ってその場に崩れ落ちる。途端に襲って来たのは、今まで体験したこともないような激痛だった。優美は混乱した。自分のふくらはぎに視線を向けると真っ赤な血が流れ出していて、中心には肉をえぐったような穴がぽっかりと開いている。その瞬間、優美は自分が怪我を負ったことを理解した。しかし、何故かまでは混乱しきった頭では理解できなかった――え?――え?――なんで?――あたし、なんかしたっけ?――あれ?
 必死に優美は考えを巡らせながらまずは止血をしなくてはならないと思い付いて、掌で穴を覆うと思い切り握り絞めた。そんなことで止血できるはずがなかったのだが、冷静さをすっかりと失ってしまっている優美にそれが分かるはずもなく、また自分に怪我を負わせた人物がすぐ近付くにいることにも気付かない。
 ふいに、あまり長さのない優美のポニーテールを何物かが力強く掴むと、上へと持ち上げた。身長が低く華奢な優美の身体はそれに合わせて浮いて行く。優美は益々困惑するばかりであった。
 穴が開いたふくらはぎは段々と麻痺し始めたのか痛みをあまり感じなくなっていたが、その変わり全く力が入らない。そんな優美を、顔の見えないその人物は乱暴に引きずって無理矢理歩こうとさせて来る。
「貴様、殺されたいのか! 歩け!」
 その声で男性であることを理解したが、だからと言ってなんの解決にもなるはずがない。
 優美はそうして引きずられながら、先程の明るく、遠山先生がいると思われる部屋の前へ連れて行かれる。「失礼致します!」と背後の男性が言うと、中へ力いっぱい投げ込まれた。
「……どうしたんだ? 加藤。」
 優美をここまで連れて来た男性ではない、もっと凛とした静かな声が聞こえる。なんとなく聞き覚えがある――それは、遠山先生らしき声と言い争っていた人の声にそっくりだった。
「は! 生徒が部屋から脱走したのを発見しましたので、連れて参りました!」
「……保志!?」
 力強い声で報告する?カトウ?と呼ばれた男性に続いて、聞き慣れた声が優美の名前を叫んだ。優美が苦痛に歪ませた顔を上げると、思った通りそこには遠山武紀先生がいて、驚いた表現を浮かべ――優美のふくらはぎの怪我に気付いたのか、目を見開きながら手を延ばして彼女の元へ駆け寄ろうとして来る。


堕天使と殺人鬼の最初へ 堕天使と殺人鬼 18 堕天使と殺人鬼 20 堕天使と殺人鬼の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前