変化の夜-3
「お姉さん?田畑にお姉さんいたんだ?」
「うん。俺が高校の時に嫁に行っちゃったけどね。これは結婚式の写真」
「ふーん…。綺麗なお姉さんだね」
「ははっ、ありがとう。ちょっと抜けてるけどね」
そう言って田畑が本棚に写真立てを置く。
「亜紀さんまだ眠いでしょ?もう少し休みなよ。バイクで良ければ家まで送るし」
「ん…。じゃあもう少し寝させてもらうね」
「うん、俺今日午後から講義だから、気兼ねしないでね」
そう言って田畑が私を抱き寄せる。
「田畑はあったかいね」
「そりゃ生きてるもん」
「…そういう意味じゃなくて」
おかしそうに笑う田畑を軽くにらむ。
「体温だけじゃなくて、心もあったかいって言いたかったの」
「そう?ありがとう」
ちょっと照れくさくてぶっきらぼうに言う私に、田畑がふわりと笑いながらそう答えた。
「こうして誰かの体温感じながら、安心して眠るの久しぶりだから…」
そう、彼と別れるちょっと前から、安心して寝たことなんてなかったから。
「大丈夫。俺は一緒にいるから。安心して眠って」
私の心のつぶやきを汲み取ったのか、田畑がそっと髪を撫でながら言う。
「うん。ありがと」
寝返りを打つとさっきの写真がふと目に入る。
幸せそうな、姉弟の写真。
2人とも笑っているのに、なぜだか気になった。
田畑の笑顔が本当に笑っていない気がして。
「…そんな訳ないよね」
1人つぶやいて、田畑の胸に顔をうずめる。
今はまだ、田畑に甘えていいかな。
もう少し頼っていいと言った田畑の言葉を、素直に受け取りたい。
ただそれだけ。それだけだから。
そう自分に言い聞かせ、私は再び眠りに落ちた。
私の心の変化に少し戸惑いを感じながら。