***君の青 E***-7
「どうしたの?絆」
ハッと我に返って、僕はかぶりを振った。
「いや、別になんでもないよ」
彼女の顔を見たとたん、告白しようなんて気はどこかへ吹っ飛んでいた。僕は何気ない顔で、少し湿った芝生に腰を下ろして言った。
「なぁ」
「ん?」
と、雫。
「青い鳥って、本当にいるのかなぁ」
別に雫の言っていることや行動を疑っているわけじゃない。けれど、やっぱり 自分の目に見えないもの、それ自体には信用を置けなかった。
雫は数秒の沈黙の後、
「私、思ったんだけどね」
と、言った。
「青い鳥は、本当は鳥じゃないんじゃないかな」
「え?」
「確かにメーテルリンクの物語は幸せを呼ぶ青い鳥は、本当の鳥だったよ。でも、あの物語の中にはもっと深い内容が隠されていたような気がするの。うまく言えないんだけどね、メーテルリンクはもっと違うメッセージを読者に伝えたかったんじゃないかな。ひょっとして・・・そう、その人によって青い鳥は意味を違えてくると思うのよ」
雫が話し終えても、僕は何も言えずにいた。
沈黙が続く中、どうしても言葉を選べなかった。
彼女の言いたいことはよくわかったし、それはそうだなと思う。僕は真っ直ぐに街の明かりを見つめている雫の横顔を見つめた。微風がその綺麗な髪の毛に触れ、わずかに揺らしているのが分かる。このまま、永遠にこの瞬間が続けばどんなに幸せだろう。と、ふと僕が思った時だった。
一瞬風がやみ、代わりに雫の独り言にも似た一言が僕の耳に飛び込んできた。
「絆の、青い鳥ってなんなんだろうね」
その言葉は、僕の胸の中にある何かを、確かに射抜いた。そして射抜かれた何かパンクした自転車のタイヤのようにぐぐっと縮まり、僕を軽い呼吸困難にまでさせた。
気がつくと、再び風が強くなっていた。
けれど僕には、その風の音が聞こえなかった。雫の声がまるで残り火のように頭の中で燻っていた。
胸が締め付けられる。僕は彼女に気づかれないように、自分の左胸を押さえた。
何故だ。何故こんなにも苦しんだろう。
この感覚はあれに似ている。そう、好きな彼女に告白出来ずに苛立ち、やり場のない怒りをもてあますような、なんともやるせない感覚に・・・。