刃に心《第14話・サイレントマインド〜静かなる想い》-4
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「ねぇねぇ、しぃ君。はなちゃんって疾風君にだけは話しかけるよね?」
希早紀が話し込む疾風と刃梛枷を眺めながら言う。
「しかも、疾風君は真面目君だから軽くあしらったりしないから、ついつい長話になるんだよね?」
疾風は軽く微笑みを浮かべながら話している。
それとは、対照的に刃梛枷は無表情。
だが、何処となく刃梛枷が身に纏う雰囲気は以前とは異なり楽しげだった。
「だから、かえちゃんの機嫌が悪いんだ」
ブスッとした表情を作りながら、楓は疾風を睨んでいる。
「そうだな。疾風は人が良いけど、人が悪いんだよな…」
「もう!そんな顔してるかえちゃんは可愛くないぞ!えい、えい♪」
ツンツン。
楓の頬で希早紀の指が跳ねる。
「疾風君がはなちゃんばっかり構うから、ヤキモチ妬いてるんだぁ〜♪」
「こ、こら!やめぬか!」
さらにツンツン。
それを楓は鬱陶しそうに手で払う。
「はなちゃんって、疾風君のこと好きなのかなぁ?」
ツンツンを続けながら、希早紀は問い掛けた。
「無表情過ぎて判らんが…黒鵺からしてみれば、疾風は一番親しい相手だからな。可能性は十分だ」
「そうだよねぇ…」
「なにぃ!刃梛枷ちゃんは疾風に惚れているのか!」
いつの間にか現れたクラス一のお調子者───彼方は怒りを露にしながら疾風を睨み付けていた。
「あんな普通人間の何処がいいんだ!俺の方が!俺の方がぁ…」
うわーんと彼方は机に突っ伏す。
「いやいや、彼方君。疾風君ファンはああ見えて多いんですよ」
「な!そ、それは本当なのか!」
楓が椅子を盛大に鳴らしながら立ち上がり、希早紀に詰め寄る。
「う・そ♪」
ニヤリとした笑みに楓は顔を真っ赤にし、小さくなりながら椅子に座り直した。
「でもね、ライバルはいないわけじゃないんだから」
そう言って、今度は教室の廊下側の一番後ろの辺りに目を向ける。
「はーなーせー!」
千夜子が双子の拘束を振り解こうとジタバタともがく。
手にはおおよそ一般学生の持ち物とは思えないトゲトゲ付きの凶悪な銀のアクセサリー。
俗に言うメリケンと言う奴だ。
所々に傷があったり、不自然な黒い染みがあり、使い込まれている感じがして非常に生々しい…
「なーぐーらーせーろぉぉおお!」
猛る獣の如く唸りながら、腕を振り回す。
「一発だから!一発で済むから!!なッ!?」
そんな千夜子の様子を苦笑いを浮かべながら見つめる3人。
「とにかく、ヤキモチも程々にしておかないとはなちゃんや先輩に先を越されちゃうぞ♪」
「判ったから、頬をつつくな!」
「嫌♪かえちゃんのほっぺた、プニプニしてて気持ちいいんだもん♪」
嘆息すると、仕方なく希早紀の成すがままにされることに。
(やはり許婚としては寛大な心が必要だな…)