刃に心《第14話・サイレントマインド〜静かなる想い》-3
「…何、怒ってんのさ?」
疾風が小声で聞いた。
「…別に怒ってなどおらぬ。御馳走様でした!」
楓はタンッと、少々乱暴に湯飲みを食卓に置く。
「……仮にも許婚だというのに………自室に…他の女を連れ込んで…………何が不満なのだ……私の何処が…物足りないのだ……」
ぶつぶつと文句を言いながら、楓は自分の部屋に向かう。
「……ごちそうさまでした…」
刃梛枷はスッと音も無く席を立った。
「……外で待ってる…」
そう言い残して、消えるように部屋を出ていった。
「はぁ…」
疾風は溜め息を吐きながら箸を置いた。
「母さん…頭痛薬と胃薬は何処……?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
仕度を済ませ、外に出ると刃梛枷はいた。
何をするわけでも無く、ただ立っている。
「ごめん、待たせた」
「……ううん………大丈夫…」
まるで、恋人同士がデートで待ち合わせをしていたかのような台詞。
当然、楓は面白くない。
ふつふつと怒りがたぎる。
それは鈍い疾風にもひしひしと伝わってきた。
「まあ、その…今日は起こしに来てくれてありがと」
そう言うと、隣りの怒りの密度があがったような気がした。
だが、見る勇気が湧いてこない…
「い、行こうか?」
刃梛枷がコクリと頷くと、意を決して疾風は楓の方を向いた。
案の定、怒りという名の火炎が燃え盛っていた。
「か、楓も遅れるよ?」
「判っておるッ!」
吐き捨てるように言うと、楓は乱暴に歩き出した。
「頼む…今からでもおそくないから、夢…」
オチませんから。
「はぁ…」
ガックリと肩を落とし、疾風はトボトボと歩き出した。