刃に心《第14話・サイレントマインド〜静かなる想い》-2
「……大丈夫…?」
「…な、何とか…」
「…で……何故…刃梛枷がおるのだ?」
楓がキッと刃梛枷を睨む。刃梛枷はその視線に動じることなく言った。
「……起こしに来た…」
それに対し、楓はまだ訝しげに刃梛枷を睨み続ける。
「…それ以外は?」
「……無い…」
「…へ、変なことは…」
「してませんッ!」
疾風が言った。
すると、刃梛枷は疾風の方を向き、じっと目を見つめながら問い掛けた。
「……迷惑だった…?」
深い黒色の瞳に疾風が映る。
刃梛枷の上目遣いの視線と少し悲しげな声音に疾風は思わずたじろいだ。
「あ、いや…その…別に迷惑じゃないんだけど…いきなり部屋の中にいられると楓も俺もびっくりするから…」
「……判った…」
疾風がそう答えると刃梛枷は視線を外しながら呟いた。
「兄貴〜、何やってんの?朝ご飯冷める……よ…」
扉から顔だけ出した霞が固まる。
疾風は頭を抱えた。
「ねぇ!この人ってこの前兄貴を殺そうとしてた人でしょ!?えっ、何?楓ねえさんもいるの?もしかして、修羅場?兄貴が連れ込んだの!?」
状況に慣れた霞が騒ぎ出す。
「………夢オチにしませんか?」
しません。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……先日は大変な御迷惑をお掛け致しました…」
刃梛枷が頭を下げる。
周りには食卓を囲む忍足一家と楓。
「気にするな。あの程度で死ぬような息子ならとっくの昔に死んでいる」
「まあ、大事に至らなかったのだから許しましょう。刃梛枷ちゃんはご飯は食べた?」
その問いに刃梛枷は小さく首を横に振った。
「じゃあ、食べていきなさい。一人暮らしなんでしょ?」
「……ありがとうございます…」
「一人暮らしって何処に住んでるんだ?」
疾風がそう問い掛けると刃梛枷は窓の外を指差した。
その先には部屋4LDK、セキュリティー万全、バス、トイレ別々の高級マンションが聳えている。
「あそこってかなり高いって噂なんだけど…」
「……平気…」
「平気って…」
「……数年分の家賃がいつの間にか振り込まれていたから…」
高級マンションの家賃数年分を頭で弾き出し、疾風は思わず引きつった笑みを浮かべた。
「…やはり親バカだろ」
才蔵が呆れたように呟きながら、味噌汁を啜る。
その間も楓は不機嫌そうに箸を動かしていた。