姫×菊丸〜殿と遭遇之巻〜-1
紅葉が地面を埋め尽くし、腹巻きが必需品となってきたこの頃。
縁側に、もの憂いに更(ふ)けるような表情で少女が座っている。
少女とは、言うまでもなく静姫である。
一体、どうされたのであろうか。……心配である。
「姫ーー、茶を持って参りましたー。」
菊丸が盆を手にして走ってくる。
茶の表面に小波ひとつ立たない、美しくなめらかな走り方である。
だが姫は視線を動かさず、なんの反応も見せない。
「…姫、どうされました?今日は冷えるので茶をお持ちしましたが……。」
菊丸はそう言いながら盆を姫の隣に置く。
「……菊丸、……座って。」
「…? …はい、失礼いたします」
「……」
「……」
菊丸はしばらくの間姫の横顔を眺めていたが、姫の視線の先が気になったようでそちらに顔を向けた。
すると姫はゆっくりと喋り出した。
「若木を…見ていました…。」
「若木、ですか…。」
「散っていった葉に…人の…人生を見ました…。」
……何やら、姫の眼がうっすらと潤んできたようだ。
「葉は…緑に芽生え、成長し…秋には美しく色付き…やがて散る…………人も…それと同様に…やがて散り逝く…。」
……菊丸は、黙って姫の言葉に耳を傾ける。
「でも…!葉は、頑張ったから…頑張り続けたから…あれほどまでに美しく色付いた……静も…人として…そうありたいものです…。」
『賢うなったなぁ、静。』
……一瞬、辺りがしんと静まり返る。
この不思議なまでに響く声の主は……
「父上…。」
「長吉様!」
……やはり殿か。
「うん、静は賢うなった。儂は嬉しいぞぉ。」
殿は透き通るような空色の着物を纏い、圧倒的な威風を譲し出しながら歩いてくる。
菊丸はそれを見て素早く平伏の姿勢をとる。
「だが静よ。葉が美しく色付けるのは…土台たる幹があってこそなのだぞ…!見よ…!葉が散ろうとも尚、力強くそびえる若木を…!」
殿は庭の幹と枝だけになった若木を指差す。
……やはり殿の言葉には重みがある。
姫も今までとは違った目で若木を見ているようだ。
「のぅ。爺やもそうは思わぬか?」
「…! はっ、はい」
な、何故わかったのだ…?絶対にわからぬような隠れ方をしていたのに…。
爺や、これでも忍術を体得しておるのだぞ…?
と、言うよりも記念すべき初台詞がかような間の抜けたものになってしまうとは……。
「爺や…?居たのですか?」
「あいや、たまたま通りかかったもので…」
「ほ〜ぅ。たまたま通りかかって茂みの中に隠れていた、とな?」
「うぐっ、殿ぉ…」
……殿、絶対に楽しんでおられる…。その証拠に、この意地悪い顔といったらもう……
「まぁ、爺やの気持ちもわからぬでもない。…このふたりの様子、儂も眺めていたことが何度かあったからの。…のぅ、菊丸。」
「……」
菊丸は頭を下げたまま、返答に困っている様子だ。