姫×菊丸〜殿と遭遇之巻〜-2
「面を上げよ、菊丸。…お主の秀好な顔立ちが見えないではないか。」
「……」
菊丸は言われた通り顔を上げる。その顔は困惑に満ちていた。
「人生五十年……主らはもう十三年生きた。残りあと三十七年?しか?ないのだぞ…?その人生を、何も無い地面を見て過ごすことなどあってはならないのだ。…よいな、菊丸?」
「…はい。」
……やはり、殿の弁舌術は素晴らしい。
菊丸も殿の言葉から何かを得たような顔をしている。
……しかし
菊丸は、殿が本当に言わんとしていたことは何か……気付いているだろうか…?
『何があっても下など見るな。下など見るくらいならこの清々しい空を見上げろ。美しい景色を見ろ。』
そして……
暗に、殿が言わんとしていることは……
『お主と、いずれ何処ぞに嫁ぐ静とが顔を合わせていられる時間は限られておる。今のうちに、下など見ていないで静の顔を目に焼き付けておけ…』
……といった所だろうか。
「どれ、そろそろ行こうか。明日、儂は京に向かう故その支度をせねばならん。」
殿がそう言って歩き出すと、菊丸はまた平伏する。
「…あぁ、それから静に菊丸。…恋に生きるは若者の特権ぞ。……それから爺や、盗み見もほどほどにな。」
そうして殿は『かっはっはっは』と笑いながら去っていった…。
………
殿の笑い声が聞こえなくなると、菊丸は顔を上げる。
しかし、何とも浮かない様子だ。
……そしてそれは姫も同じだった。
双方、それぞれ意することがあるのだろう…。
……どれ、ふたりが考え込んでいる内に退散するとするか……。
「「 爺や 」」
「…は、はい」
「盗み見が発覚した身で逃げるつもりですか…?」
「まさか、爺やがそんなお人だとは思わなかった…。」
「あ…あ…」
「「 覚悟は良いですね? 」」
「ひ、ひぃぃ…!お助け〜〜〜!!」
……この時の爺やは、明くる日姫があのようなとんでもないことを言い出すなどとは想像すらできなかった…。
姫と菊丸、ふたりの物語はまだまだ続く…。