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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み9 〜secretly concern〜-9

「何のためって……」
 秋葉の声に、瀬里奈は首を振る。
「ただ一緒にいるだけが能じゃないでしょ?話し合って頭で互いを理解するのも悪くないけど、感情ぶつけ合って腹の底から互いを理解してみなさいよ。この程度で嫉妬する事は少なくなるわよ」
「そ、そうなの……?」
 輝里の声に、瀬里奈はにっと笑った。
「少なくとも、あたしはね。あいつと……」
 形のいい顎をしゃくって、いつの間にやらフロアに戻っていた龍之介と一緒にレジの近くにいる紘平を示す。
「何度も感情で話し合ったわ。顔を引っ掻いたり股間を蹴飛ばしたくなる事もあったけど、今では話し合った結果に満足してる」
 秋葉が色々な意味でイタそうな顔をしているのは、三人揃って見ないふりをした。
「ま、あの顔引っ掻くのはもったいないしね」
 おそらく世間一般の美的感覚からすれば並以上に整った容姿を持つ青年達だが、順位をつけるのなら『龍之介→紘平→秋葉』となるだろう。
 いずれにしろ、顔がいい事は保証された面々だ。
「と・に・か・く!一度でいいから、禍根を残さないように話し合ってみなさいよ!?」
 
 
 さて、それから数時間後。
 夕暮れ時の時間帯になってきたせいもあり、輝里と秋葉は美弥や瀬里奈と別れて芝浦家の玄関先までやってきていた。
「あ、ありがと……」
 秋葉の手にぶら下がっていた福袋を受け取ると、輝里は呟くように礼を言う。
「帰ったら、メールするな」
 秋葉の声に、輝里は頷いた。
「ん」
 さよならと言う代わりに片手を上げつつ、秋葉は踵を返す。
「……あ」
 首を捻ってから体を反転させると、秋葉は輝里を見下ろした。
「?」
 その目に何やら読み切れない感情が含まれていて、輝里は首をかしげてしまう。
「あ〜、その……笹沢さんに言われたから、って訳じゃないんだけどさ」
 えらく歯切れの悪い言い方に、輝里は眉をひそめた。
「輝里は……そういう事の回数、多い方がいいのか?」
「そういう事?」
 輝里のいぶかしげな口調に、秋葉は真っ赤になる。
「だからその…………体で、話し合う方」
 婉曲な言い方だが、ない根性を搾った秋葉にはこれが精一杯だった。
「俺、あんまりそういう事しないから……もしかしたら、輝里には不満かなぁって……」
 秋葉の言いたい事が理解できると、輝里の頬は真っ赤に染まる。
「あ、あの、その……」
 輝里は当然ながらまともに答える事もできず、どもってしまった。
 夕暮れ時の時間帯。
 玄関前で、顔を真っ赤にしている男女。
 はたから見ればかなり珍妙な光景だが、当人達はいたって真面目なのである。
 ただ、周囲の状況が頭の片隅にも置かれていないだけで……他人が見れば、面白い。
「いや、満足してるならいいんだけどさ」
 輝里も自分と同じく興味を行動に移せないクチかと思ったのだが……この様子からするとそれは勘違いだったんじゃなかろうかと、秋葉は思ってしまった。
 こうなると、こんな事を尋ねてしまった自分が異常に恥ずかしい。
「あ〜……へ、変な事尋ねてごめん。今のは、忘れてくれ。な?」
 慌ててそう取り繕うと、秋葉はまた踵を返す。
 そしてそのまま、一歩を踏み出した。
 と、その時。
 
 くんっ
 
 上着を引っ張られ、秋葉はバランスを崩す。


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