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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み9 〜secretly concern〜-8

 カラーン……
 
「っと……いらっしゃいませ!」
 磨いていたコップを置き、紘平は入ってきたお客に声をかけた。
 龍之介は慌てて厨房へ続く廊下に引っ込み、モップを片付ける。
「何だ、お前かよ」
 お客を正面から見た紘平は、拍子抜けした声を出した。
「何よ、失礼ね」
 相変わらず豪奢な身なりをした瀬里奈が、警告するように片眉を吊り上げる。
「自分の彼氏のとこへ足休めしに来ちゃ、まずい訳?」
「いや、売り上げに繋がるならたいていの事は大歓迎だが……お前らもかよ!?」
 お笑い芸人並みのスピードで、紘平はツッコミを入れた。
 美弥に次いで輝里、続いて秋葉が入ってきたのである。
「俺は荷物持ちだ」
 不本意そうに、秋葉は答えた。
「福袋漁ったって、面白くはねえもん」
 秋葉の両手には、大きな袋が六個もぶら下がっている。
 ちなみに内訳は、瀬里奈が三つ・美弥が二つ・輝里が一つだ。
 前々から欲しかったブランドの福袋を秋葉を使って手際良くゲットし、三人共ご機嫌である。
「んっじゃまずはあったまるために……店員さ〜ん、ドリンクバーお願いね〜!」
「へ〜い」
 やる気なさそうに手を振ると、紘平は人数分のカップを取りに行ったのだった。
 
 
 どう見ても客が入っているとは言い難いため、四人は遠慮なく広い席へ陣取った。
 紘平が出してくれた温かいマグカップに好みの飲み物を注いでから、雑談が始まる。
「まー高由君、ありがと。お疲れ」
 瀬里奈の言葉に、秋葉は肩をすくめた。
「いちお、男だしな。あんまり女に荷物持たせる訳にもいかないだろ」
 女の子三人より頭二つは抜けている秋葉が荷物持ちをしないというのは、見た目にいいものではなかったのである。
「でも何の関係もない私の分まで持って貰っちゃって……」
 申し訳なさそうな美弥に対し、秋葉は傷付いた表情を向けた。
「ひっでぇ。俺、伊藤さんは友達だと思ってたんだけど?」
「あ……」
 美弥は眉を寄せ、ばつの悪そうな顔になる。
「笹沢さんもな。で、地力に差がある以上、力のあるのが荷物持ちするべきだろ?」
 つまり彼女である輝里は当然、という訳だ。
 なかなか紳士的な根性である。
「なぁに言ってるの、美弥。友達ってのは、利用するためにあるのよ?」
 瀬里奈の物言いに、輝里が眉を歪めた。
「つまり、利用する以上は利用される覚悟も必要なのよ」
 まあそれならば、公平である。
 それを聞いた輝里は、肩をすくめた。
 その仕草が、秋葉とそっくりだったりする。
「だから安心していいわよ、輝里」
 いきなり話を振られた輝里は、目をぱちくりさせた。
「え?え?」
 混乱したせいか要領を得ない返答をする輝里へ向けて、瀬里奈はにんまり笑う。
「あたしが高由君を利用するのは友情から掛け合う迷惑なんであって、恋愛感情だとか浮気だとかは、全く関係ないって事よ。いらない嫉妬でやきもきするなんて無駄な真似、疲れるでしょ?」
 自分の感情を見透かされていたと知り、輝里は真っ赤になった。
「そ、そうだったのか?」
 あたふたする秋葉を見て、瀬里奈は嘆息する。
「あんたら、もうちょっと感情ぶつけ合いなさいよ。一体、何のために恋愛してるの?」
 何だか哲学的な香りのする質問に、二人は目を白黒させた。


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