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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。 5 『雨 〜少女二人、昔語り』-1

 地に住む龍には掟があった。地を這い蹲り、その身で持って土地を肥やし、決して天にあだなしては成らないこと。
 天に住む龍にも掟がある。天空を駆け、雨を降らし、河川を潤し、決して地に留まっては成らないこと。
 2匹の龍は互いに争うことも無く、己の役割を忠実に果たし、全ての人の営みを、ただ黙って見ているだけだった。
 ……これまでは。


「廃村!? 村を捨てるの」
「今日もその事で村長さん達が話し合っているわ。なんでも此処の川の下流に、大きなダムが出来るんですって。そしたらここも湖の底に沈むのよ。そのために村人全員が立ち退きを迫られているとか」
 そこは山野の谷間に造られた、小さな貧しい村であった。だが美闇(みやん)はこの村が大好きで、毎年夏に成るとここを訪れている。仲の良い友達の家を訪ね、一時期のバカンスでも過ごすかの様に、毎年ここへやってきては数日を過ごす。恒例であった。
 そんな美闇が訪れている村外れの一軒屋は、昔ながらの古い農家であり、そこには年老いた夫婦が住んでいる。二人とも気の良い、じじさまと、ばばさまであり、美闇の事を実の孫以上に可愛がってくれた。
 そして直ぐ近所には、丁度美闇と同じ年頃の少女が独り居て、名前を『白嶺(はくれい)』と言った。艶やかな黒髪は美闇と同じ様にとても長く、着ている涼しげな白いワンピースに良く映えていた。細くしなやかな四肢は美肌と言うにはとても白く、あまり健康そうではなかったが、彼女自身が病弱という事では決して無い。いたって健康なお年頃の少女である。


 美闇(みやん)と白嶺(はくれい)はとても仲が良かった。毎年美闇が遊びに来るたびに、二人は決まって河原に降り、大仏の頭ほども有る大きな岩の上に座り込んで、暗くなるまでおしゃべりをしていた。それにも飽きず、空を眺めたり、川のせせらぎに耳を傾けたり、時の経つのも忘れていた。
 白嶺は草笛を吹くのがとても上手だった。彼女の吹くその青草の音色(ねいろ)に、美闇はいつでもうっとりとする。
「ねえ覚えてる。むかしここで、村の人達を相手にして意地悪をしたこと」
 美闇は、白嶺の草笛を聴きながら、昔の事を思い出し、ふとそんな事を言い出す。
「もちろんよ。もっともそんな事が有ったなんて、今では誰も覚えていないわ」
「無理もないよね。あれから何十年も経ってるんだもの」
「楽しかったなぁ。あの時は本当に心から笑えたわよね」
 そんな事を語りながら、美闇と白嶺、二人とも楽しかった出来事を頭に思い浮かべ、共に笑っていた。


 *****


 もう何日、いや何ヶ月も日照りが続いていた。川の水は干上がり、田畑は荒れ、村人は皆、水不足に喘(あえ)いでいた。
「こうなったら神様にでもすがるっきゃねぇべぇ! 『雨乞い』をするだ!!」
 村長は集まった村人にそう告げた。村人たちも全員が賛成した。がしかし。
「おらあ反対だ!」
 一人の青年が、立ち上がって意義を唱えた。
「野次郎なに言ってるだ! もうこれしか手がねえべよ!!」
 集会所に集まった村人は、口々にこの『野次郎』という青年を非難する。
「雨乞いには生贄(いけにえ)が要るべ! 誰が人身御供(ひとみごくう)を出すだ! ここに集まった皆の衆の中にも、おらとおんなじに子供がおる奴がおるべ、誰が村の為に娘さ出すだ! 誰んとこの子供さ贄にするだ!!」
 野次郎の叫び声に、彼を非難していた人達も一瞬にして黙りこくると、野次郎のように若い娘を子に持つ親達は皆、俯いて顔をそむけるばかりだった。


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