闇よ美しく舞へ。 5 『雨 〜少女二人、昔語り』-5
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「そろそろ帰るね」
美闇はそう言うと、座っていた大岩の上から飛び降り、川原から山へと伸びる野道を駆け上がって行った。
「ねえ! 来年も来るんでしょ!!」
そんな美闇の背中に向かって、白嶺(はくれい)は声を掛け、手を振った。
「白嶺っ! あんたこそ街へおいでよ! こんな所より面白い事がいっぱい有るよ!!」
美闇もまた手を振り、白嶺に向かって叫ぶ。
白嶺は黙って大岩の上に立ち上がると、
「私はいいの! ここから動けないから! それにここが好きだし! 心配しなくていいよ! ダムが出来てもずっとずーーと此処に居るよ! 何年も何十年も! だから美闇、また合いに来て! わたしはいつでも待っているから!!」
そういい残すと、彼女の身体は空気に溶け込むかのように、薄れて消えた。
美闇はそんな白嶺に黙って手を振ると、踵を返して山の上へと走り去った。
美闇と白嶺が消えた山野には、何時しか満々と水を蓄えた大きなダム湖が現れ。水は何処までも青く澄みわたり、風は水面(みなも)を静かに、揺らしていた。