コイシイヒト-1
(何で休みなのに働いちゃってるんだろ、あーあ…)
パソコンのモニターと朝から睨めっこ。夏休み明けのプレゼンに間に合わせてくれって部長から頼まれたから仕方なく一人出社してきた。
今年の夏は哀しいことに彼氏もいないし、特に何の予定もたてなかったからいいのだけれど…でもせっかく会社に来るなら渡辺さんに逢いたかったなあ…なんて。
暫く画面と向き合っていたけど、何となく煮詰まって来た。
(休憩、しよ…)
立ち上がって自販機に向かおうとドアに向かって歩き始めて、ふっと思い立った。
(渡辺さんのデスク、こっそり座っちゃお♪)
出口の近く、はじから二番目。いつも人の出入りが多いからなかなかじっと見詰める事も出来ない、憧れの人…
二つ先輩の渡辺さんは、営業部の中ではかなり出来る人。すらっとしていて、顔も結構端正かも。ちょっと軽そうに見えるんだけど、案外可愛いトコあるの。何でって…
部の飲み会の時に皆の会計をやっていたら、隣に渡辺さんが来て、その時開いたお財布のポケットには、愛犬らしきミニチュアダックスの写真。
「渡辺さん、ワンちゃん飼ってるんですか?可愛い!!」
「あっ!?(照)見られちゃったかぁ…黙っててよ、栞ちゃん」
「え?どうしてですか?可愛いのに!」
「いや、いい年してなんか女の子みたいだろ?犬…好きで飼ってるんだけどさ、可愛くてつい写真沢山撮っちゃうんだよね…栞ちゃん、マジ内緒な!」
「はーい♪」
いいなって思ってた渡辺さんにそんな一面があるのを知ってその日から大好きになった…
(誰も居ないから…渡辺さんの席、すわっちゃお…)
そっと椅子を引き座って机に伏せる。この前外回りの後に疲れてここに伏せてた渡辺さん。
「あーもう!寂しいよぉ…渡辺さんに逢いたーい!渡辺さん大好き!」
一人だと思って声に出して叫んだその時。
ガチャッ…
扉が開いた。
「栞、ちゃん…?」
「…やっ、あっ、ええっ?やっ、やだあ!!」
そこには、冗談みたいだけど、本物の渡辺さんが立っている。いつもと違うTシャツにジーンズ。凄いカッコイイんだけど、そんな事思ってる場合じゃない。
「栞ちゃん、今の、ホント…?」
渡辺さんがいきなり直球を放つ。どうしたらいいの?私…
「あの…私……もう…やだぁ…」
顔が熱い、多分私真っ赤な顔、してる筈。
「栞ちゃん!」
いきなり、渡辺さんにきつくハグされた。
嘘、信じられない…動揺してるのに、変に冷静な私がいたりして、もう訳解んない……
渡辺さんの顔が迫って来る…嘘ぉ……