たったひとこと【第2話:こんな2人】-3
この軽い男は川野 一平(かわの いっぺい)。中学まで大阪に住み、親父の仕事の都合でこの高校の近辺に越してきた。
お笑い好きな性格とそのキャラが相まってクラスの人気者になり、特にこの『イッペ―カワノプロデュース:面白体験談のコ―ナ―』は、われよわれよと生徒が集まる朝の人気イベントで、違うクラスから来るヤツもいる位だ。
参加料200円、観戦料100円で一番爆笑をとった者が賞金を総取りできる。
ちなみに総収益の3分の2が優勝者、3分の1は一平のポケットに入るという寸法である。
どういうわけか成之は現チャンピオンとして君臨している。
「なあ〜オレと一緒に天下とろうや〜お前とやったら西を越えれるわ、うん」
「・・・」
「なあ、なりゆきちゃ〜ん」
「・・・」
「また詩乃ちゃんに振られたんやろ」
「・・・」
「もう無理やって。お前は相手にされてないんや。オレかてもう諦めた。人間諦めが肝心言うで」
ダンッ!
一平の体が宙に浮いた。いや、成之が胸ぐらを掴んで力任せに持ち上げている。
「オレとお前を一緒にするな・・・!」
「あ、ああ。分かった。悪かったて。だから降ろしてくれや」
だが、その力が緩む気配はない。
「オレ小学生の時から詩乃に片想いしてんだぞ・・・それから一度だって心変わりしたことはないのに・・・それをお前は、お前は諦めが肝心だと・・・!」
成之の眼にうっすら涙が浮かんでいる。余程辛い想いをしてきたのだろう。
とはいえ形相は人を殺しかねない。
「一言も喋れなくて落ち込んでる時にお前のおちゃらけショ―に毎朝付き合わされるオレの気持ちも・・・」
その時、天の助けかカラカラッと戸が開き
「な―り―?詩乃が話あるっていうからちょっと来な!」
ドスン!
「マリ姉!し、し、詩乃がオレに!?」
尻から落ちた一平など眼中になく、成之はマリ姉と一緒にふらふらと教室を出ていった。
○○○○○○○○○○○○
「・・・」
「・・・」
「ほら!連れてきてやったぞ。あとは若いモン同士好きにしな」
2人を廊下に残して去ろうとするマリ姉。
「ちょ、ちょっと!」
詩乃の叫び虚しくひらひらと手を降って教室に消えてゆく。
「・・・」
「・・・」
沈黙。
とはいえ2人の鼓動は長距離ランナ―のラストスパートに等しい。